第11章 嘘つきヒロイック(物間寧人)
「ねぇキミさ……血、飲みたくないの?」
「……な、っ!?」
中学の頃一度だけ、彫刻刀で指を切った友達の血を舐めたことがある。
あっという間に噂は広がって……気持ち悪い、悪趣味、怖い、化け物、人食い、悪魔の子、エトセトラ。私はめでたく有名人になった。
あんなの二度とゴメンだと、知り合いのいない雄英受けて"個性"のことはひた隠しにしていたのに。
誰かから聞いたか、もしくは彼は思考を読むような"個性"なのか?
「……なんで、それを」
「僕の"個性"はコピーっていうんだけどさ。出会い頭でキミの"個性"をコピーしてからずっと……血が欲しくて欲しくてたまらないんだァ」
その目を見て察した。これから何をされるかを。
「っ、放して!」
奴の手を振り解こうと力を入れるも、ビクともしない。
それどころか掴まれた腕をぐい、と引かれ、反対の手で腰を抱き寄せられる。まるでワルツでも踊らされるように密着した私の首筋に、彼は素早く噛み付いた。
「……う、そ」
痛みはさほど無い。しかし傷口から血液を吸い出そうとする熱い舌の動きとぴちゃぴちゃという水音が鮮明に脳を揺する。
首筋に当たる吐息、私の知らない柔軟剤の香り。
心臓の音が頭の中で鳴ってるような、そんな感覚にくらくらする。
ズルい。
喉がごくりと鳴った。
「血と一緒にエネルギーまで吸い取れるのか。……へぇ、いい"個性"だね」
ニンマリと笑いながら金髪の男は、私の血と混じり合った赤い涎をこれみよがしに手の甲で拭う。
「僕のほうがいいけどさ」
ズルい。ズルい。
ズルい。ズルい。ズルい。ズルい。
……私も、飲みたい。