第11章 嘘つきヒロイック(物間寧人)
手は震え、呼吸は乱れ、暑くもないのに汗をかく。
言っておくが、これは病気ではない。ただの禁断症状だ。
視界はチカチカと霞んで、平衡感覚すら失い、ヨロヨロと壁に手を付きながら保健室を目指す。保健室に……保健室にさえ辿り着けば輸血用の血液があるはずだ。
私の"個性"は吸血。血を吸うことで相手を弱らせ己を強化させる事ができる。しかしその代償として、日々この吸血衝動と戦わなければならないのだ。
「だ、大丈夫?」
その姿がよっぽど異様なのか、見知らぬ女子生徒に心配される。
白い首筋がとても美味しそうに見えたが、私は引き攣った笑顔で答える。
「大丈夫、よくあることだから」
人は2Lの血を失うと死んでしまうと言われている。
血とともに生気を奪う私だ。致死量はもっと少ないかもしれない。
だから私は心に決めていた。悪い人しか血を吸わないと。
やっとの事で保健室に到着したのはいいが、開けようとした扉が突然中から開いて。
前につんのめった私は金髪の男にぶつかった。
「おや、随分と顔色が悪いね。しかし残念ながらリカバリーガールなら出ていったところだよ。なんでもA組の奴が大怪我したらしくてね。まったくこれだからA組の連中は」
勝ち誇ったようにフフッと鼻で笑う男。え、自分も治癒受けといて何言ってんの?コイツ怖っ。
「私、リカバリーガールが戻ってくるまで休ませてもらうんで」
そう言ってさっさと逃げようとしたけれど、何故か彼は私の腕を掴んで離さない。