第10章 事象の地平線を歩く猫(轟焦凍)
"個性"を発現したばかりの私は、ひとりぼっちの男の子の前に現れた。
その時は自分の"個性"の事なんてよくわかってなかったけど、私はお父さんから教わっていた。『突然どこかに呼ばれたら、その人は誰かに救けて欲しいと思っている人だから、うーんと優しくしてやりなさい』って。
だから私は言ったんだ『もうだいじょうぶ、わたしが来た!』って。
私たちはずっと一緒だった。ご飯のときも遊ぶときも稽古のときも、寝るときも。そう望まれたから。
少しでも男の子が……しょーとくんが笑えるように私も頑張った。
でも、ダメだった。
しょーとくんの兄弟や両親に、私は見えなかった。
だからしょーとくんが一人で喋ってるのをなんとか止めさせようとした。
「…なんで……なんで父さんはが見えないの?」
ばちん、と重い平手打ちが飛んできた。
「しょーとくん!」
しょーとくんを庇おうとしても、しょーとくんのお父さんの身体がすり抜けてしまう私にはどうすることもできなかった。
「そんなものはお前の作り話だ!よく見ろ!そこには誰もいないだろ!いないと言え、焦凍ッ!!」
「嫌だ!ぜったい言わない!」
「まだ言うか焦凍ッ!!」
また大きな手が空を切る、ばちん。
何度も殴られては、壁まで吹っ飛ばされて……。
私はもう見たくなかった。
「もういいよ、しょーとくん!……いないって言ってよ!」
最初は抵抗してたしょーとくんも、ついに言っちゃったんだ。
「……い、ない…」
「そうだ!そんなものはいないんだ!」
「…なんて、いない……」
その瞬間、そこにいた私は誰からも認識されない"無"になった。
「」
彼の小さな手を掴もうとして、すり抜ける身体。
「」
その日しょーとくんの中で、私は死んだ。