第10章 事象の地平線を歩く猫(轟焦凍)
更衣室から教室に戻る間、僕は思い切って轟くんに聞いてみることにした。
「轟くん、ちょっと聞きたいんだけど……さんってどういう風に見えてる?」
「出席番号7番のことか?」
「えっと、たぶんその子の事だね」
クラスメイトのことを出席番号で呼ぶ轟くん。
直観的にわかってしまった。きっと"見えない"だけじゃないんだと……。
「俺にはアイツが見えないし、声も聞こえない。名前も何度聞いても覚えられない」
バツが悪そうにやや俯いて轟くんは言った。
「てっきりそういう"個性"なのかと思ったけど、見えてないのって俺だけなんだよな?」
不可解そうに眉根を寄せる轟くんに、小さく頷く事しかできなかった。
「緑谷には、どう見えてんだ?」
「可愛いらしい女の子だよ。猫みたいな耳と尻尾がついてて、運動神経がよくて……轟くん?」
突然立ち止まった轟くんにつられて僕も立ち止まる。
それはほんの数秒の事だったけど、確かに轟くんは何かに気付いて、それから凄く寂しそうな顔をした。
「なんでもねぇ」
何事も無かったかのように再び歩き出した轟くんに、「どうかしたの?」と尋ねたけれど、結局最後まで「なんでもねぇ」と素っ気ない返事しか返ってこなかった。