第9章 恋とはどんなものかしら(ファットガム)
列の先頭からは、おばちゃんや子供たちと楽しそうに話すファットさんの声と、たまに沸き起こる笑い声が聞こえてくる。
自分の前に並ぶ行列がだんだんと短くなるだけで、死んじゃいそうなくらい心臓がばくばくする。
さっきまで私の前に並んでた女の子がファットさんの肩に乗ってピースしてる。横に立つお父さんもニコニコして嬉しそうだ。相変わらず心臓はばくばくと煩いしなんだか汗もかいてきた。
「次の方、カメラをお預かりします」
スタッフさんに声を掛けられ、緊張のあまり携帯は手からすり抜けた。ショッピングモールの喧騒の中、ガチャンと硬いプラスチックの音が響く。
焦って拾おうとするも「大丈夫ですか?」とスタッフさんに先を越される。ああ、恥ずかしい。
視線を上げると、ファットさんと目が合った。
「、……ちゃん?」
うそ、今、
私の名前を、呼んだ……?
混乱して完璧に挙動不審になってしまった私は別のスタッフさんに背中を押されてファットさんの隣に立たされた。
「笑って笑ってー、ハイチーズ」
流れ作業で抑揚を失ったスタッフさんの声に続いてパシャリとカメラアプリのシャッター音が響く。
「お写真、こんな感じでよろしいですか?」
「……あ、は、ハイ」
画面なんてろくに見ず、とにかく頷く。
私に携帯を手渡すと、スタッフさんはそのまま後ろに並んでいたあの家族連れを呼ぶ。
あんなに楽しみにしてたのに、こんな訳のわからないまま終わるなんて……嫌だ!