第9章 恋とはどんなものかしら(ファットガム)
「うわあ、本当に来ちゃった……」
高速の渋滞に捕まりイベントに間に合うかとヒヤヒヤしたが、それは杞憂だった。
「あの、これ……ファットさんに、渡してもらえますか?」
受付っぽいスタッフさんに前回よりひと回り大きくなった紙袋を預ける。
中には手紙と、シナモンが香る林檎のマフィンが8個。前に渡したマフィンをSNSで褒められたのが嬉しかったというか……調子に乗って作り過ぎた感は否めない。
とりあえず目的を1つ達成して気持ちが軽くなった私は、"最後尾"のプラカードに引き寄せられるように列に並ぶ。今日のイベントではなんと、サンタさんの格好をしたファットさんと写真が撮れるのだ。
往復のバス代とか諸々の出費は一旦忘れるとして、来てよかった!
家族連れ多いのが少し恥ずかしいけれど、その反面小さい子供たちに人気なんだなぁって自分の事のように嬉しくなる。
「おねーちゃん、ファットすきなん?オトナなのにへんなのー」
前言撤回!
後ろに並んでいた男の子から指をさされ、私は真っ赤な顔で口をぱくぱくさせることしかできなかった。両親は男の子を叱って謝ってくれたが、ファットさんならこういう場面も笑いに変えれるんだろうか。
数ヶ月前に私に笑い掛けてくれたあの笑顔を思い出して、今度は耳まで赤くなる。
覚えててくれてる、かな?