第1章 白雪姫(赤葦)
「…さん」
「え、はいっ!」
体育館の近くの水道でボトルをゆすいで、校舎に戻る途中の渡り廊下。後ろから赤葦さんの声が聞こえてきました。それも私を呼ぶ声が。
振り向くと着替えを済ませた赤葦さんがそこに立っているではありませんか。
思い掛けない出来事に、また胸が高鳴る。
好きで、好き過ぎて、苦しい。
「一つ変な質問をしてもいいですか」
「はい、なんでも」
私は首が千切れるんじゃないかってぐらいブンブンと元気よく頷く。
「もし…白雪姫を助けに来たのが、王子様ではなくただの一般人だったとしたら……彼女はどうすると思いますか」
赤葦さんからの質問は、これまた思い掛けず何ともメルヘンチックなお話でした。
「これは…ナゾナゾですか?」
「いえ」
「で、では心理テストか何かですか?」
「…それに近いかもしれません」
赤葦さんは煮え切らない表情をしています。
「…あのもしや、白雪姫と一般人というのは私と赤葦さんを例えたものだったり…いえ、スミマセン、何でも無いです」
自分で口走った言葉が恥ずかしい。
何を言っているんだ私。
白雪姫なんてガラじゃない…
私はただの心臓が弱かった高校生。
「意外と…鋭いんですね」
「…へ?」
赤葦さんは今度は驚いた様に目を見開いていました。
「お、お褒めに預かり光栄です。そして赤葦さんは心配せずとも私にとって完全無欠の王子様なのでどうぞご安心下さい!」
「…あ、貴方まで何を言い出すんですかッ」
あの、クールな赤葦さんが、顔を赤らめている。
でも私も自分で何を言っているんだか、混乱してきました。
「ああ!違いました!えっと、白雪姫を助ける一般人の話でしたよね」
ただ美しかったという理由で、運悪く毒リンゴを食べさせられ倒れてしまった白雪姫。
棺に入った姫は誰かのキスで目を覚ます。
白雪姫はきっと、ときめいてしまいますよね。
死にかけた自分の為に足を止め、その命を救ってくれた人に。
恋に落ちるのは肩書きなんかじゃない。
「2人はきっと仲良く暮らしたと思いますよ。赤葦さんが思ってるよりも、女の子は単純なんです」