第7章 麻雀(白鳥沢)
五色の予想は正しく、この時既に天童は七対子(チートイツ)のテンパイだった。※リーチできる状態
麻雀では本来、リーチはしてもしなくても構わない。
それぞれのメリット・デメリットを理解して使い分ける事が大切だが、それに沿わない者も少なからずいる。
どんな時もリーチをする…それが牛島の麻雀だとすると、天童は全くの逆、どんな時もリーチを宣言しない男であった。
リーチは宣言するだけで成立する、麻雀の中で最も簡単な役とされている。ただ先程の五色のように他プレイヤーから警戒されることになり、場合によってはロン…つまり他プレイヤーの捨てた牌でアガる事が難しくなる。
点数は低くなるが決して手の内を悟られない、ダマテンこそが天童の真骨頂だった。
そして彼がそれを成し得ているのは何と言っても優れたGUESS(推測)があるからに他ならない。
天童はあっちへこっちへ視線を泳がせる五色を見てさも楽しそうに笑う。
まるで今からどシャットが決まると確信しているかの如く。
若利くんが一枚も切ってない萬子(マンズ)切るの怖いよね。
心の中で天童は五色に語り掛ける。
いつもみたいな役無しでも今なら立直(リーチ)、一発(イッパツ)最低2翻(ハン)。誰だって親に振り込みたくはないよね。うんうん、わかるよ。
今日も几帳面な工は右側に字牌を集めて並べてる。
ツモ牌とその字牌、どっちを切ろうか迷ってるんでしょ?
視線でバレバレだよ。
工が始めに切った字牌は白(ハク)と東(トン)。北家(ペーチャ)だから場に一枚しか出てない北(ペー)、持ってるでしょ、…持ってるよね?
カタン。
静かに場に切った牌から、工の震えた手が離れる。
「ロォォォォォン!!!」
突然の雄叫びにビクリと瀬見の肩が跳ねる。
「今、五色の手が離れる前に叫ばなかったか?」と興奮ぎみに天童を指差す瀬見。ちなみに瀬見以外の全員はこの出会い頭の交通事故のようなロンに慣れっこだった。
「悪いね、工」
申し訳無さなど欠片も見せず、天童は言う。
「強い!強いぞ天童覚!」