第7章 麻雀(白鳥沢)
今のはそれぞれのコンセプトの問題でわからなくてもゲームに差し支えは無いよ、と大平のフォローで瀬見はやっと静かになった。
「リーチ」
そんな場の空気を動かしたのは、牛島特有の抑揚の少ない掛け声だった。コロリと1000点の点棒(テンボウ)が場に出される。
「アレはなんだ?」
「点棒(テンボウ)って言ってそれぞれの持ち点…カジノで言う所のチップのようなもので、最終的に一番多く持っていた人の勝ちなんだ」
「ワカトシくんはあとひとつでアガれる状態…つまりリーチを宣言したの。ちなみに一人の持ち点は25000点からスタートして、リーチするときは1000点の点棒を場に出すのがお約束ね!」
そしてここで、今まで不規則になりながらも流れてきた試合が止まる。
「おーっと、五色選手の手が止まったぁぁ!」
五色は手牌の上にツモった七萬(チーワン)を横向きに置き、悩んでいた。
五色の手元には既に萬子(マンズ)の六、七、八が揃っており、七を三枚集める刻子(コーツ)を狙う必要性は無い。普段だったら、迷い無くツモ切りをしてしまう場面だった。
しかし試合はまだ8巡目。牛島の捨て牌から待ちを読むにも情報が少なすぎる。だが確かな事実として、牛島は一枚も萬子(マンズ)を切っていない。
それに加えて更に彼を惑わすのは、別方向からのプレッシャーだった。
対面(トイメン)に座る天童の、ニタニタと粘っこい笑み。
何故か手の内を見透かされているような気がして、背筋がぞわりとした。