第1章 白雪姫(赤葦)
「木兎さん、またさんに変な事吹き込みましたね?」
「なんだよ赤葦、人をいきなり犯人扱いして!」
「犯人扱いと言うか、本人から聞いたので黒です。真っ黒です」
部室で木兎さんを問い詰めていると
「なんだ赤葦、また愛の差し入れか?」と他の部員からヤジが飛んだ。
「ええ、やたらと生臭い鶏胸肉ジュースを頂きました」
「げ、お前飲んだのか」
「律儀だなぁ」
いやぁこれはもう愛だな、なんて抜かす木兎さんを睨みつける。
「ううっ、お俺は好きだけどなー、あーいう真っ直ぐな子」
明らかにその視線は泳いでいた。
睨まれてビビる様なら、最初から挑発しないで貰いたい。
「じゃあ木兎さんが付き合ってあげたらいいじゃないですか」
制服に着替えながら俺は言った。
「いやあムリムリ。あの子は赤葦以外見えてないでしょ。なんたって命の恩人だもんな」
「止めて下さい、命の恩人なんて…俺はただ、救急車を呼んだだけで何もしてません。彼女が助かったのは救急隊員の方のおかげです」
そう俺は何もできなかった。
倒れた彼女に気づいて、救急車を呼んだ、それだけ。
誰かがAEDを持って来なかったら、救急車の到着が遅れていたら…どうなっていたかは分からない。
「他人事だなぁ赤葦」
木兎さんが珍しく溜め息などついていた。