第2章 宿題(黒尾)※
「やっと来たかよ」
「別に。黒尾がウザかったから。早く本返して」
私はドアの前でイメトレした通り、冷静に言葉を選ぶ。
「コレか?」
顔の前でひらひらと文庫本を揺らしてみせた。
「待ってる間に読んだんだけど、これヒロイン実は既に死んで…」
「うわ、ちょっ黒尾、ネタバレすんな」
慌てて奴の手から本を取り返す。…はずだった。
本という囮にまんまと釣られた私は、そのまま腕を掴まれ引き寄せられていた。
「ハイ、捕獲完了」
前回と違うのは、もう片一方の手が私の腰の辺りに回されてる事。
「っやだ、私帰るから」
「連れねぇな。前回の礼がまだ残ってるんたけど」
身体を捩っても顔を背けても逃げられない。
嫌がる私を追い掛けて何度も黒尾の唇が重なる。
「っん、なんで…こんな事っ」
「何でって?そりゃあが好きだから」
黒尾はニヤリと口角を上げる。
こんなの狡い。
私の想いを踏みにじるように、スキなんて簡単に言ってしまう。
「へー、好きでもない奴に、そんな事…言えちゃうんだなァ、黒尾は」
いつか黒尾に言われた様に言葉を返す。
癇に障る喋り方をいくら真似しようもしても、涙が溢れ、声が震える。
「言わねえよ」
黒尾は真っ直ぐ、私の目を見て言った。
「好きじゃねえ奴にこんな事、言わねえよ」
初めて見る奴の真剣な眼差し。