第2章 宿題(黒尾)※
テストも近づいたある日、机の中から読みかけの本が無くなった。
代わりに《放課後 第二資料室》とだけ書いたノートの切れ端が入っていた。
ああ、これは黒尾の字だ。
一目でそんな事がわかってしまう自分が悔しい。
私は行かなかった。
黒尾が好きだ。
会って話したい、もっと触れたい。
でも都合の良い女なんかにはなりたくない。
心も頭もぐっちゃぐちゃで読書も勉強も身が入らなかった。
クラスでも放課後でもずっと避けて来たのに。
ある日の昼休みついに捕まった。
「この前読んでた本、返却期限は大丈夫か?」
爽やかに笑う黒尾。傍からみたら普通の、何でもないような会話に見えるだろう。でも私はわかる。この男がさも愉しそうに笑っているのが。
スッと距離を縮め、吐息が掛かるくらい耳元で囁く。
「それとも俺が怖いのかァ?」
言うだけ言うとじゃあな、と何事もなかった様な顔をして、奴は去っていった。