第2章 宿題(黒尾)※
冗談っぽく言えただろうか。
泣きそうな顔をしてないだろうか。
「一昨日の放課後してたでしょ。おんなじ事、私にもしてよ」
「へー、好きでもない奴にそんな事言えちゃうんだなァ、は」
黒尾はニヤニヤと薄っぺらい笑いを顔に貼り付け、相変わらず何を考えてるのか読めない。
「別に。単純な興味。まあ黒尾、顔はいいからね」
「顔"は"ってトコが引っ掛かるが、いつも毒舌なに言われると悪い気しねぇな」
腕を掴まれ、ぐっと引き寄せられる。
反対の手で頭の後ろを押さえられ、背の高い黒尾が覆いかぶさる様に唇を塞いできた。
「んっ……」
激しく、角度を変えて何度も。
いつの間にか口の中に熱い舌が入ってきて、堪らず私は掴まれてない方の腕で奴の胸の辺を叩く。
「どーした、自分から誘っといてもう降参かァ?一昨日の女とおんなじ事シて欲しいんだろ」
いつも冷めてて人を見下してる、負けず嫌いの私には効果的な煽り方だった。
でも、今日の私は私じゃない。
「……こんなの、最低だ。黒尾のバカ」
だから今ここで泣いてる私は、私じゃない。
「黒尾なんて…」
黒尾なんて、だいっきらい。
言ったところで何が変わる訳では無いだろう。
それでも私は言えなかった。
苦しい程好きな人に、大嫌いなんて言えなかった。
カバンから提出前にコピーを取っておいたプリントと、部室の鍵を取り出し投げつけた。
「遊んでないで早く部活行けよ、脳筋」
私は引き戸を乱暴に閉めて、昇降口へ走った。
それからしばらく、私はあの部室には近づかなかった。
鍵は今も黒尾が持っているのだろうか。