第2章 宿題(黒尾)※
第二資料室。その場所は言うなれば倉庫だった。
対して広くもない部屋に日焼けした地球儀、黒板用の三角定規とコンパス、ダンボールから溢れる程の国語辞典と漢字辞典、さらにはボロボロの石膏像まで様々な物が雑多に詰め込まれていた。
やたらと物が多すぎて、使えるスペースは隅に置かれた一組の机と椅子のみ。それでもやる気の無い部員一名の文芸部には丁度いい部室だった。
放課後、図書室で適当に本を選び第二資料室へ向かう。
鍵を開けようとしたところ、既に人がいた。
人、というか黒尾がいた。
「よ、」
「よ、じゃなくてどうやって入ったの」
椅子にだらりと腰掛けたまま、片腕を上げた男に問う。
聞けばこの学校のボロい引き戸は、扉を持ち上げてガタガタ揺するとたまに開くらしい。
自校のセキュリティの甘さに戸惑う。
「んなことより、プリントの礼だ」
黒尾は机に置かれたエナメルバッグを背負うと、約束のいちごオレを私に放り投げ、気怠そうに去っていった。
この日からちょくちょく黒尾は宿題を写させろと交渉に来て、そして私もいちごオレ1本で請け負った。
宿題を写させた日は黒尾が部活前に部室に立ち寄ってくれる。一人が楽だから、誰もいない文芸部を選んだはずだったのに。曲がった性格の自分自身をさらけ出して奴と話をするのも悪くなかった。
春になって学年があがっても、私と黒尾はまた同じクラスで。
いつしか私は宿題を写させろと奴が焦って頼みに来るのを、楽しみに待つようになった。
私だけがクラスで見せない、腹黒い奴を知っていた。
奴だけがクラスで喋らない、皮肉屋な私を知っていた。
いつからか私達はお互いにとって特別な存在になったんだと、私は盛大な勘違いをしていた。