【R18 食戟のソーマ】大好きなのに素直になれない。
第1章 プライドの高い先輩はいつも私を『のろま』という。

悪びれる様子もなく、はしたなく唇を舐めた私に四宮先輩は照れを隠すように大きく舌打ちした。ポトフのいい香りが調理場を囲う。時計を見ればそろそろ15分回りそうだと四宮先輩は火を弱めた。最後に塩胡椒を加えて完成し、白いシンプルな皿に優しくゆっくり盛り付けた。
「はぁ…凄く美味しそう」
「…食べるか?」
「い、いいんですか!」
「まあ、一人で食える量でもねぇしな…」
と盛り付けた皿を見つめて言った。色鮮やかな野菜の見栄えと、コンソメのいい香りが調理場に行き渡る。煮崩れしていない野菜を見ても綺麗で、やっぱり四宮先輩って凄い人だと感動した。ナイフとフォークを2人分用意し、目の前に腰掛ける彼と一緒に両手を合わせて「頂きます」と呟く。フォークで野菜を刺して口に含む。
「んっー!」
ビクビクッと身体が痙攣する。口に広がる野菜本来の味、けれど優しく塩胡椒の味やコンソメがしっかり染みていて、野菜の苦味や臭みも全くなくとても甘く美味しい。はぁっ…とうっとり頬を染めて吐息を漏らす私を、四宮先輩はじっ…と観察するように見ていた。
「あの…な、なんですか?」
「あっ、いや…なんつーか」
ポトフを口に運ぼうとした彼の手が止まる。視線をそらした四宮先輩は、恥ずかしそうに小さな声で言った。
「のろまな癖に…食い方が、なんかエロい…」
「へっ…?」
いや、のろまは関係なくない?と思ったが、それ以上に食べ方で『エロい』と言われた事が初めてだった。四宮先輩の料理には人を惹きつけるなにかがあるのだと直感する。初めては意味もなくポロポロと泣いた時、そして今日の二回目ある。
「エロいと言われるのは初めてですよ…?あと…ちなみにこうやって料理を食べて意味もなく泣いたり、エロい感じになるのって…四宮先輩の料理だけですからね?」
「はっ…?」
「だから本当にとても残念ですけど。四宮先輩本人がそういうのなら、貴方の手料理を食べない方がいいのかも知れませんね…」
カチャリとフォーク、ナイフを皿の上に置くと口元を少し乱暴に拭いた。これで彼の手料理がもう食べられなくなるというのは非常に残念だが、エロいとまで言われてしまうとどうしようもないなと苦笑いする。けれど彼の表情を見れば、恥ずかしそうにうつむいて耳を赤くしているだけだった。
「四宮先輩どうしたんですか?」
「俺だけの時なら…食ってもいい」
「えっ?」
