第9章 天からの贈り物
「愚問だな、人虎。白石の頭脳を舐めるんじゃない、この方は太宰さんをも凌駕する程の思考力を持つお方だ」
『いや、芥川さん持ち上げすぎですから』
「白石、本来であれば僕如きがこのような口を叩いてはならぬような……」
『あー…はい、大丈夫ですからそれやめましょ?ね?』
芥川さんの変貌ぶりに敦さんも男の子も顔を引き攣らせていて、とりあえず鏡花ちゃんのヘリの位置を突き止めるべくして制御室に向かう事にした。
恐らく太宰さんが安吾さんに話を通してくれているはずだから、逃げられるのは逃げられるだろうけれど…まだあの子は入社試験に合格はしていない。
だから異能力の夜叉白雪を操れないし、ヘリから脱出するのも不可能だ。
私が単身で乗り込んでもいいのだけれど、そうするとあのヘリを操作する必要が出てくる。
無人機だからいいものの、あんな質量の機械をずっと空中に浮かべているわけにもいかない。
何とかモビーディックを近づけて、まとめて両方操作できるようにすれば、後は他の人の手を借りて……
そう考えた時だった。
再び大きく床が傾いて、高度が下がり始める。
『!?…何、なんで!?』
「……制御端末も操作を受け付けぬ、これはいったい…!?」
いくら操作してもウイルスに感染してしまっていて、モビーディックの高度が上げられない。
眼前の窓からは横浜の街がすぐそこにまで迫ってきていて、本当にもう時間が無いといった状態だ。
こんな時に、自作のハードウェアが欲しい。
あれさえあったらこんなウイルス、すぐにでも撃退出来るのに。
南の島で使用したもの以外に持って行っていたものは、ほかの世界から持ち込んだ技術を外部に絶対に漏らさないようにと全て破壊してきていた。
今ここでこの制御室をいくら操作しようとも、これらをいじるための機器が足りない。
こんな事が起こるだなんて、流石の私も予測していなかった。
頭を真っ白にさせていると突然誰かの声が響く。
「外部から何者かが制御装置に侵入し、操作しておる」
『!…貴方は、メルヴィルさん……?』
「そうだ、お初にお目にかかる…さて、どうしたものか」
「……まだ、方法はある」
皆して暗い顔をしている中、制御室の通信端末から鏡花ちゃんの声が聞こえた。
「そちらの状況は聞いた。白鯨の操作は無理でも、大質量で無理矢理叩き落とせば、希望はある」