第29章 白と蝶
ある日俺の元へと訪れたそれは、真っ白で純粋で、まっすくな瞳を俺に向け、俺の黒々とした何かを浄化してしまったようにさえ感じるほどに美しかった。
それにとりつかれて逃げられず、俺は彼女と再び出逢ったのだ。
幾重もの出逢いと別れを繰り返し、絶望に絶望を重ねてきた、飛ぶこともままならなかったそんな彼女。
手放さなくて良かったと…手放してくれなくて良かったと、今尚心の底から思う。
隣で眠る宝物の手を指を絡めて握りながら、今日も一番輝いていた自分の愛しい存在を、撫でて、口付けて、愛し尽くす。
寵愛を注いでも注いでも、それが尽きることはない。
きっとこれから先も…たとえこの体が朽ち果てようとも、そんなことはありえないのだろう。
運命共同体と言ってしまえば聞こえはいいが、そんな宝物を自分に縛り付けている。
たまにそれに申し訳なくなっても、怖くなって怖気付いても、そんな時はこの少女が縛り付けてくれてしまう。
逆もまた然りで、俺達は互いに逃げられない。
逃げたくない、その思いが根底にあるからこその関係だろう。
公的な形が残せるようになっただけであって、本質は何も変わっていないのだ。
これからも、俺の大切で…俺の宝物で、俺の蝶で。
必然的にそうなると、俺も蝶の大切で、宝物で、蝶の中原中也になってしまう。
こんなにも幸せなことが、あるだろうか。
指をキュ、とまた絡めてから、真っ白な彼女にまた満たされる。
自分が…そして彼女が心臓の鼓動を止めてしまうその瞬間、そしてその後まで。
二人でこうして、一緒にいよう。
お前を独りになんて二度とさせてやらないさ。
俺のことも、そんな風にはしてくれないんだろう?お前は…
額にもう一度口付けてから、彼女の背にも腕を回して、その鼓動や吐息を聴き込むようにして、意識を彼女に沈めていく。
____???年前
「…誰だよ、手前」
『死神…貴方を魂葬しにきたの』
「成仏したっていいことねぇだろ、こんな世界…所詮人間、孤独にゃ勝てねえ生き物なんだよ」
『……じゃあ、私が貴方を独りにしない。絶対…また見つけ出して、その時は私の一生使って、貴方を幸せにしてみせる』
「はっ、物好きな死神なこった…精々それまで生きてやがれ」
『…貴方、名前は?』
「ねぇよ、そんなもん」
『じゃあ…________』