第9章 天からの贈り物
甲板に続く扉までなんとかたどり着いて、様子を見るため隙間を開け、チラリと中を覗き込む。
すると、四年前に見ることのなかった芥川さんの姿がそこにはあった。
羅生門の応用だろうか、黒獣を外套に纏わせて無理矢理身体強化をしているような動き…あんな芥川さん、見たことない。
敦さんも異能を前より使いこなせるようになっているみたいで、四肢が虎の身体になっている。
それだけでも驚きなのだけれど、一番驚くべきは、最も奥に堂々と佇む……金色の、巨大な竜巻のようなもの。
芥川さんと敦さんは共闘する意志を持ったのか、二人でその中に向かって駆け出していく。
そしてそんな中、遠い遠い竜巻の中にチラリと見えた人影。
『……フランシス、さん…?』
その人影が竜巻の中から飛び出して、戦闘が始まった。
扉を開けて男の子と一緒に甲板に出て、戦闘の様子を見守る。
あんな状態の芥川さんと敦さんをものともせずに相手するフランシスさん。
彼の異能の詳細を聞いたことは無かったのだけれど、恐らく身体強化系のもの。
じゃないとあんな冗談みたいな力、出せるはずがない。
「あ、あんな強い…のか」
『組合のボスなだけある……!』
呆然としている内にも戦闘はどんどん進んでいて、見ると、敦さんがフランシスさんに殴り飛ばされて、甲板の外に飛ばされてしまっていた。
あのままじゃ落下する…そう思った時、私よりも早くに芥川さんが黒獣の鎧を解いて、敦さんに向かって黒獣を伸ばす。
それを足場として敦さんはまたモビーディックに向かって駆け出して、フランシスさんに向かって腕を振り上げ、また攻撃を仕掛けている。
羅生門と月下獸の共闘が、こんなにもデタラメな戦闘を可能にするだなんて思わなかった。
開いた口が塞がらないまま様子を見ていると、敦さんの振り上げた腕に芥川さんの羅生門の黒獣が纏わり、二人分の渾身の一撃がフランシスさんに振りかざされる。
しかしそれにフランシスさんは素手で対抗していて、あとはどちらが長く持つかといった耐久戦になっていた。
その時にはもう私はヒールを脱いで駆け出していた。
多分、計算なんてもの関係なしに、この戦いの結末を本能的に感じ取っていたのだろう。
凄まじい衝撃波によって雲が晴らされ、夕日が顔を覗かせた頃。
「……!白石!?」
フランシスさんの身体は強く吹き飛ばされ、決着が着いた。