第9章 天からの贈り物
蝶への煩悩を頭の中から振り払い、上体を起こして胡座をかく。
「にしても、本当にいらねえ事教えちまった……これじゃあマジでいつか全身キスマークだらけにされちまいそうだ」
「おや、嫌なのかい?」
「はあ!?何言ってやがる手前…あんな必死んなってつけにくるあいつ可愛過ぎんだろ!!?」
「あ、うん、聞いた私が馬鹿だった。ごめんネ」
あれでつけながら上目遣いなんてされた暁には、俺も仕返しにもっと恥ずかしがるような……もっと可愛い反応を見せてくれるような事をしてやろう。
溢れんばかりの煩悩を誤魔化そうと話題を変える。
「つうか太宰、手前よくも蝶に全部見た事なんざ教えてくれやがったな」
「あの方が蝶ちゃんは安心しただろうからね?それに、どうせ君のことだ。言い出せなかっただろうし、よかっただろう」
「ぐっ、…これ以上余計な事言いやがったら手前死なす」
「はは、流石にこれ以上は君の口から直接聞きたいだろうから言わないさ。私は君なんかのためじゃなくて蝶ちゃんのために動いているんだから……で、君は部下か誰かを呼んでとっとと帰りたまえ。ここにいられると私の身が危険だ」
言われなくともそうするさと吐き捨てるように言い放ってから、戦闘が終わったという連絡と、汚濁を使用したことを首領に伝える。
これできっと、広津さんか誰かが来てくれるだろう。
なんとか身体を動かして立ち上がり、重い足取りで山を下る。
するとあろう事か、太宰が同じようなペースで隣を歩き始めやがった。
まあこいつも今回は深手を負っているから仕方ねえかとなんとか解釈したはいいものの、その直後に向こうから話しかけられる。
「中也」
「あ?……んだよ」
「君、何があっても絶対に誰かにやられるんじゃないよ。じゃないと、多分あの子は本気で誰でも殺すつもりだろうから」
「…手前なんざに言われなくても分かってんだよ、糞太宰」
あいつの手をまた血に染めさせるだなんてことしちゃいけねえ。
あいつに殺しの目的を与えちゃならねえ。
折角今、人を救う側の、世間的に見ても良い人間になれてんだから。
俺なんかのためにあいつの綺麗な手を汚させちゃいけねえ。
もう俺なんかのために、あいつを苦しめるのは…あいつを辛くさせるのは。
汚濁なんてもんを使わなくとも強くあれるように。
____もうあいつを傷つけねえで済むように。