第9章 天からの贈り物
私が口にすると、何故だかやっぱり、太宰さんは微笑む。
「蝶ちゃんが誰かの事をそこまで好きになれただなんて、本当に喜ばしい事だ。まあ相手がこいつだっていうのは気に食わないのだけれど」
そしてすぐさま思いっきり顔を顰めた太宰さんに、ああ、そういう事かと納得する。
『そうですね…私が殺されるのならともかくとして、中也さんが殺されそうにでもなれば、それこそ私も手を出しちゃうかもしれません』
「おお、蝶ちゃんから殺しの宣言が出るとは」
『中也さんがやられるようなことなんて普通無いとは思いますけど。もし何かあったら、私は自分の手で相手の息の根を止めに行く覚悟を何年も前からしていますからね』
「僕玉砕しててよかったって心から思ったよ今」
顔を青くするジョンさんの方に目線をやる。
そうか、この人は今の今まで敵対して闘っていたんだ。
『えへへ、強かったでしょ、中也さん』
「蹴られただけで何メートルも飛ばされて驚くしかなかったよ…これでもし僕が異能を使って対抗できたとして、気絶でもさせようものなら君に同じくらいのことはされていただろうね」
『手、出したら分かってます?ジョンさんだから殺しまではしませんけど…………私、人の異能力だって取り上げる事、出来るんですよ』
ニコリと微笑むと何を感じ取ったのか、ジョンさんも太宰さんも冷や汗を流す。
「異能力を…?取り上げるって……」
『私の能力は移し替えの能力が基盤になっていますからね。空間の移し替え、傷…そのものの存在の移し替え……存在してさえいれば、どんなものでも移し替えられますから』
「それは恐ろしい事を聞いた、君の事だけは怒らせないよう気をつけないと。この男には本当に手を出さないのが賢明らしい」
ジョンさんが言った後に太宰さんが末恐ろしい…と呟いたような気がした。
それに笑顔で返してから白い扉を作り出し、恐らく中也さんによって全滅させられた組合の構成員さん達を近くに全員移動させる。
そして扉をモビーディックの中の医務室に繋げて開き、たくさん用意された寝台の上に一人一人移動させる。
『じゃ、私は移動係なんで…ジョンさんは報告もあるでしょうけど、とりあえず座って下さいね、固定具だけでも付けますから』
それと太宰さんは…と目を移す。
彼も大概深手を負っている。
『……それ以上、無茶しないでね。怪我、しないで』