第9章 天からの贈り物
出会ったばかりの頃の話。
私を突然連れ去っていき、突然人として扱い始めたその人に、私の頭はまずついていけなくなってしまった。
この人間の考えている事が分からない。
この人間の企みが何なのか、分からない。
けれども当時はまだまだ相手に気を許しているわけでもなく、相手からも深くまで関わってこようとなんてされなかった。
だから一歩引いたところからこの人の後をついていって、何を企てているのか、私なんかを攫っていって、一体何が目的なのかを、ついていける範囲で後をつけて回っていたことだってある。
だけど結局、ふとした拍子に馬鹿みたいなバレ方をしてしまって、いつもこっそりと後をつけていたことがバレてしまったのだ。
その時のこの人の顔を見て、結局私は驚かされて、この人の“人”を本能的に察知したのか、酷く心を掴まれたのを覚えている。
『…中也さんて、私が後ろつけてても、怒ったり気味悪がったりしなかったんです』
「えっ、君本当にストーキングを?」
『まあ、悪質なもののつもりじゃ無かったんですけど……意味はどうあれ中也さん、私に後つけられてたくせして、笑って私の方に寄ってきて、嬉しそうになんだ?って聞いてきたんですよ』
太宰さんも、ああ、あの日の中也は気持ち悪いくらいに上機嫌だったなあと声を漏らす。
私の知らないところで何があったのか今なら予想もつく。
『普通怒るか気持ち悪く思うかだと思うのに…本当に変な人。まあ私も中也さんにならストーカーくらいされても全然いいんですけどね』
「え、こいつに!?なら蝶ちゃん、私には!!?」
『太宰さん女の人の事になったら必死になるからなんかやだ。てかそれ絶対悪質じゃない、太宰さんの情報網とか考えただけで寒気する』
「私なら私を超える情報網を持つ蝶ちゃんに悪質なストーキングなんてされても嬉しいよ!!」
私もジョンさんもうわぁ、とあからさまに太宰さんに引いたような声を出す。
うん、確かに中也さんにならなんでも許せてしまうようだ。
普通であればこのような反応になるようなものも、この人のためにならば私も命を捧げられる。
なんにもないくせに中也さんに出逢わせてくれただなんていう力を持ったこの身体を、あげられる。
『もししてたら太宰さん死刑ね』
「ウェルカム死刑!なんなら蝶ちゃん、一緒に心中を__」
『お断りしておきますね!』