第9章 天からの贈り物
太宰さんから与えられた情報に、脳の整理が追いつかない。
『全、部……ッ?全部って…え、冗談ですよね?あんなの、特に映像なんて…裏社会で起こるような惨殺なんかとじゃ比べ物にならないようなものばかりですよ』
「ああ、私も三つか四つ程見て、結局精神の方が持たなくなって見るのを諦めた…ポートマフィアの拷問班でも手に負えないような輩に、幾度となく残酷な事をしてきたつもりだった。けど、そんなものが可愛く思えるほどのものばかりだった」
『太宰さんまで……っ、あ、んまり…気分がいいものじゃないでしょう?一般人が見たりなんてしたら、気分でも悪くして本当に頭どうにかなっちゃいそうなやつばかりでしょ?』
繰り返される、モラルの欠片もない実験。
人間に道徳性や理性がかけるとああなってしまう、それを知らしめるような、あんなデータ…
全部見た…それをした上で私を受け入れるだなんてこと、私が受けていた実験がどうとか、そんなものなんかではとどまらない。
何度殺されても、どんな殺し方をしようとも、肉体が再構築されて同じ記憶と意識を引き継ぐこの身体を。
幾度となく殺されていったはずなのにも関わらず、何度でも起き上がるこの身体を、この存在を。
受け入れるだとか、そんな生温い話じゃない。
そんなものを全て受け止めきるだなんて…その上で私に一番だとか愛だとか、そんな事を思うまでに至ってしまうだなんて。
先程言った愛がどういう愛なのかは正直なところ、本当によく分かっていない。
父性愛のようなものなのか過保護なだけか、私バカなだけなのか…あるいは本当にそこに、私の期待する愛というものが存在しているのか。
けれども今知った新しい事実に対して、私は素直に思ったのだ。
今までにない程すんなりと、頭の中にその言葉が浮かび上がってきたのだ。
『……頭、おかしいんじゃないのこの人…っ、?馬鹿なんじゃないの?本当に何か精神的な病気にでもなっちゃったんじゃないの…ッ、?』
「私もそれを知ったのは今日の事だったが、少なくとも私は中也の態度に違和感を感じたようなことは無い。こいつは病気でもなければ無理をして君に接しているわけでもないということは明らかだ」
強いて言うなら元から馬鹿だし、頭はおかしかったと思うけれどね
太宰さんの声に再び中也さんの顔を見つめて、泣きつくように彼の胸に顔を埋めた。