第9章 天からの贈り物
「面倒?何が?」
『一方的に好きだの何だの思われて印つけられて…一緒にいない時に他の異性とどんな風にしてるんだろうとか、一緒にいたら嫌だなとか、取られたらいやだとか。こんな面倒なわがままばっかり考えてるんです、私』
挙げていったら本当にキリがない。
今日、目に止まった女の人はいた?
ちょっと好みな見た目の人とか、こういう人とお付き合いしたいとか。
一緒に歩いてて自慢に思えたり、見ただけでも自分のものにしてしまいたくなるほどの女の人が。
『中也さん、かっこいいから…女の人と話してるのを想像するだけでも嫌。話しかけられてるのを見るのも、甘えようとされてるのみるのも……全部全部、私以外の女の人がそんな事してるの見るとね…想像しただけでもね?』
太宰さんもジョンさんも私の方に目を向ける。
口元を緩くして中也さんの頭から帽子を外し、私によくするように額に軽くキスをする。
そして中也さんの首元に腕を回して軽く抱きしめて、誰にも渡さない、離れない…離さないでと懇願するように腕に想いを込める。
「蝶ちゃん以外の人が、中也に…そしたら……?」
ちょっと間してから腕を緩め、目を薄く開いてから、“私”の本性が影を覗かせた。
『中也さんに関わる女の人みんな……________殺したくなってきちゃうから』
「「!!!」」
『ふふ、私に殺しをやめさせておいて正解だったよ中也さん。こういう意味でもお礼言わなきゃね…私、今頃気味悪がられてとっくの前に捨てられてたかもしれないし』
白石蝶がこの人の事を心から愛しているというのは事実だ。
白石蝶は私で、私は白石蝶…だけどもっと奥深くの私の本性は、蝶でも零でもなくて、“澪”なのだから。
そんなところに至るまで、この人は私に愛されてしまったんだから。
数百年分だとか、そんな言葉じゃ終わらない。
過去…言い方を変えれば前世や転生前といった、気が遠くなる程の“私”の愛をこの人に押し付けてしまえば、きっと中也さんが壊れてしまう。
本当に、殺しをやめさせてもらっていてよかった。
今でも他の女の人と中也さんの事を想像するだけでも…見れば余計に、相手に対して胸の内から溢れんばかりの殺意が湧き上がってくる程だ。
『ね、面倒でしょう?何人分もの私の想いが募ってね、全然収まってくれないの。毎日毎日嫉妬してるし…殺意がどこかに隠れてる』