第9章 天からの贈り物
全く、こいつは…と呆れながらも、太宰さんは中也さんの上体を起こさせて、私が動けるようにしてくれる。
しかし、私がありがとうございますと言った後のことだった。
「蝶ちゃん、私も抱き着いていいかい?そしてなんならキスもしてキスマークもつけ『はっ倒しますよ』辛辣…!!」
全て台無しだ。
この人、本当にふざけた事さえ言わなきゃ異性にもよくモテるだろうに……
『………あれ、でもそう考えたら中也さんなんて女の人にモテてそうなのに』
「!…どうしたの、突然そんな事」
ケーキバイキングでの事を思い出して、私といないところで色んな人からああやって声をかけられているんじゃないかと考え込む。
本当、中也さんの事となると独占欲というか嫉妬心というか、心配症という名の心配症が悪化して、それこそわがままになってしまう。
…こんな可愛らしくもない上に迷惑極まりないわがまま、中也さんになんて悟らせる事さえしたくはない。
『別に……太宰さん、中也さんの事拠点に運んでくれるんでしょ?』
中也さんの体を横にならせて、押し倒すように中也さんの上から顔を覗き込む。
なんて綺麗でかっこいいんだろう…なんて私の胸をうるさくさせる人なんだろう。
「え、蝶ちゃん!?私そんな事一言も『運びますよね?』あ、はい」
潔く返事をしてくれた太宰さんに良かった、と微笑んでから、本人が寝ているのをいい事に中也さんのチョーカーを外し、髪を普段下ろしていない方の首筋に口付ける。
「んんん!!?ちょっと!?」
「蝶ちゃん本当にどうしちゃったの!!?」
二人の焦る声なんて無視して、一つ…少し下にももう一つ、最後に以前つけていた一番目立つ位置に上からもう一度、薄めに紅い華を咲かせる。
中也さんは全然気づいていない様子で、チョーカーを元に戻しても気持ちよさそうに寝ているだけだった。
『ふふ、……ちゃんと送り届けて下さいね?変な虫が付かないように』
「ち、蝶ちゃんイケメン…じゃなくて!!なんでそんなまた中也にキスマークなんて…!?」
『私のって印だから。誰にも渡したりなんてしないもの…………知ってると思いますけど、私って独占欲強いんで』
ヘラリと笑えば太宰さんはなんて羨ましい…っ、と本気で悔しがり始めた。
しかし私からしてみれば、何が羨ましいのかさっぱりだ。
『羨ましい…?こんなの面倒に思うでしょう?』