第9章 天からの贈り物
私の質問に中也さんは、今度はちゃんと目を見つめながら、しっかりと私を見据えて口を開く。
「返事…そうだな。抱きしめて、やらねえとな…」
汚濁を使った後だけれど、私の血を飲んだからか動く余力の残っている中也さんは、すぐに私の至近距離にまで来て抱きしめてくれた。
「……腹は」
『大丈夫、もう治ったよ』
「…俺の手に触れてて、怖くねえのか」
『!…………ごめんなさい。実はさっき、一瞬…中也さんの事、重ねちゃったの。今はもう大丈夫なんだけど、ね?…あんな人と重ねちゃって、ごめんなさい』
中也さんの背中にゆっくりと腕を回して、彼の上着をキュ、と弱々しく握る。
ピクリと腕が揺れたかと思うと、やっぱり中也さんの事を悲しませてしまったようで、悔しそうに歯をギリッと食いしばる。
「お前は何も悪くねえ……ごめん…………っ、ごめんな…ッ」
『いいよ、ちゃんとギュッてしてくれたから。…それに中也さん、自覚ないのかもしれないけど、汚濁形態だったくせして私の事抱きとめてたんだよ?』
「!汚濁を、使ってる時に……?」
ちゃんと覚えてる。
消してしまおうと思えばあのまま私の身体を圧迫して潰して、すぐに殺してしまうことだって可能だったはずだ。
中也さんは、確かに私を抱きとめて、支えようとしてくれていた。
『じゃなかったら今頃中也さんに血、飲んでもらえてませんって……!そういえば太宰さんは?あの人がいたから汚濁なんか使ったんじゃ…っ』
ここでようやく太宰さんのことを思い出して、キョロキョロと辺りを見渡す。
しかしそれでも太宰さんの姿は見当たらない。
いくら仲が悪くても、あの人がわざわざ自分の手で中也さんを殺そうとなんてするはずないし…
中也さんも気になったのかチラリと目を私から離したその時。
「お、おお〜い……」
少し遠くの林の方から、なんとも情けない太宰さんの声が小さく聴こえた。
二人してそちらに顔を向けると、ジョンさんが顔を引き攣らせてこちらに謎のアイコンタクトを送りながら、指で隣の木を指している。
見るとそこには、何故か宙吊りにされた太宰さんが……って、ええ!?なんで宙吊り!!?
慌てて太宰さんをテレポートさせて近くに転送すると、目を丸くした太宰さんがすぐそこに現れた。
『え、本当に何を…』
「…触手に捕まって死にかけてた」
『嘘でしょ!!?』