第9章 天からの贈り物
興奮して息を切らして、肩で呼吸をする。
しかしまだ中也さんは動揺したような様子のままで、片手を頭に当てて強く押さえつけている。
「………………お前は、なんでそこまで俺を想える…俺はお前を殺しかけた男だぞ」
『…私は生半可な想いで一生なんて口にしない。半端な覚悟で人と約束なんてしない…大事になんて、想わない』
「約束……っ、そうだお前、約束って…」
中也さんの口ぶりに、まさかもう忘れたのかと眉を寄せる。
「いや、流石にそれは思い出したけど…ここまでの事をされておいて、なんで俺なんかに……!?お前それ俺のナイフっ…それは流石に勘弁!!!」
全然思い出してなんてない。
私が言ったこと絶対覚えてない。
中也さんのサバイバルナイフを右手にテレポートさせて冷たい目線を送り付けると、両手を上げて頼み込まれた。
流石の私もそこまでするつもりはないし、というかこの人にそんな事を出来るはずがないので、ナイフを下ろす。
『私言ったよね?一生私も、中也さんの事大事にするって……中也さんが何しても、私が大事にするんだって。全部全部大事にするって』
中也さんはその瞬間にまたピタリと止まって、ゆっくりと手を下ろす。
「全部…全部って……」
『中也さんが汚濁を使ったのは正直言って悲しくもなったし怒ったよ。でも、それでも死んでほしくなかったからなんとかしようとしたのに…挙句の果てには私から離れようとするし』
「お前、まさか全部って本気で…?」
『…私が中也さんに軽い気持ちでそんな事言うはずないでしょ。怪我させられたって離されかけたって殺されかけたって……最悪殺されたって、私は自分の一生を使って、中也さんの事大事にしてみせるよ』
中也さんが私にそうしてくれたように。
怒っても悲しんでも、私のせいで怪我をしてしまった時でも、ちゃんと私を大事に思って受け止めてくれたように。
「…………信頼度抜群にも程がありやしねえか蝶さんよ。ちよっと俺今、今まで生きてきた中で一番驚いてるかもしんねえわ」
『私は大事にされるだなんてことに驚かされるのに、何百年もかかったんだけど?しかもその挙句にたった今捨てられかけたんですけど、その辺ちゃんと分かってます?』
「……すまん、マジでお前に手まで出させちまった」
『…分かってくれればいいです。で、お返事は?私ずっと待ってるんですけど』