第9章 天からの贈り物
別に見捨てられてしまったわけじゃない。
だけどこの人は今、私の事を自分から突き放そうとした。
私の声にハッとして、ようやく私と目を合わせてくれる。
『大事にするって言ったのも貴方、独りにしないって言ったのも貴方!!大事にするってなんだったの!?私が一番欲しいのは自分の安全でも一人で生きていくことでもない!!!』
「…っ、だが俺がお前を……」
『貴方がいなくて、私に触れてくれなくって!!…どうして、蝶が生きていけるんですか…ッ!?大事にするって、そういう事じゃないでしょう…っ、大事にするって、私から中也さんが離れる事じゃ、ないでしょう!!?』
「!!!……けどお前っ、俺は本当にお前を殺しかけたんだぞ!?なんでんな事言えんだよ!?お前を傷付けるようなこんな手を持った奴なんかと一緒にいるよりも、誰か別の奴と一緒に_______」
中也さんの言いかけた言葉に気持ちが抑えきれなくなって、悲しかった気持ちが全て怒りに変わっていった。
乾いた音が大きく辺りに鳴り響いて、叩いた側のはずの自分の右の掌がジンジン痛む。
出来るわけないって思ってた。
だけど本当に、その言葉だけは、貴方の口から聞きたくなかった。
私に平手打ちをされたと中也さんが認識するのには少し時間がかかって、少ししてから赤くなった左頬に呆然として、ゆっくりとまたこちらに目を向ける。
「て…め………っ…何を……」
『……寂しがり屋で泣き虫な私が?貴方がいなくなったら、誰にも泣きつけなくなるって分かってたんですよね?………分かってて、今私の事、また独りにしようとしたんですよね?』
中也さんは肩をビクリと震わせて、図星だったのか目を見開かせた。
『勝手に私の事攫って、勝手にお節介して優しくして、勝手に散々心を許させておいて…勝手に、一番をとっていって?散々私に色々与えておいて、今になって突然、全部取り上げちゃうって言うんですか?』
「待てよ、俺はお前に辛い思いをさせたくなくて…」
『だったら……ッ、だったら私から離れようとしないでよっ!!離れるんだったら最初から、一生なんて言わないでよ!!………っ、中途半端に優しく、しないでよ…!!!』
私に一生だなんて言葉を軽々しく使ってはいけないものだって、それこそ私が辛いものなんだって、中也さんなら知ってたでしょう?
嘘じゃ、なかったんでしょう?