第9章 天からの贈り物
宙に浮くと何も身体に触れなくなって、穴に触れる空気の流れに今度はガクガクと身体を震わせる。
そして先程の痛みのせいでこらえきれなくなったのか、口を弱々しく開いたまま、そこから血液と少しの唾液、そして目からは再び流れた涙をポタポタと垂らし、地面にシミを作る。
『ハ……ッ、ァ…………は、っ…』
少しの間痛みに痙攣したように震えた身体が、段々と小刻みな震えに変わってきた。
するとすぐ近くでドサッと大きな音がして、感覚が敏感になった私の肌を風が撫でる。
傷は何とか塞がってくれたらしいのだけれど、たったそれだけの事にまだ恐怖心が拭えないのか、ビクビクと一人で身体を震わせ続けた。
「……っ、君ッ!!!?」
少し遠くからジョンさんの声が聴こえた気がする。
でもなんか、ちゃんと耳に届いてこないや。
なんかもう、怖いよ…………身体にあれくらいの規模の穴が空くだなんて本当に久しぶりで…
おかしいな、相手は中也さんだっていうのに。
あの人の手が怖いって思ってしまっただなんて。
あの人の怪しく笑った顔を、私の中のトラウマと重ねてしまっただなんて。
身体を縮めるように中也さんの外套に包まれば、先程までの狂気的な声とは違った、いつもの中也さんの声が聴こえた。
「ち、よ…ッ……蝶っ…!お前、なんで___」
『!!!!や、ッ…やあ……っっ!!!』
こんなにも中也さんの外套を暖かく感じるのに、いつもの中也さんの声は聴こえる気がするのに。
自分の身体に傷とともに刻み付けられた記憶が、中也さんにすがりつく事さえも許してくれない。
耳を塞ぐようにもっと身体を小さく縮めて、嫌な記憶が脳内を駆け巡る。
『も、やめてッ…そんなとこ空けな…いで………っ、もうやだ、それ嫌だ!!!そんなのもうしないで!!!!!』
四肢をキツく拘束されて、刃物から始まって段々とエスカレートしていき、最終的には酸等の薬品ごときに留まらず、大きいドリルや熱した鉄球にまで至った耐久実験。
突然気づいた時には穴が空いているもの、じわじわと身体がなくなっていくもの、恐ろしいほどの速さで削り取られていくもの…身体は自分の命が止まった感覚までもを嫌なくらいに記憶していて、ただただその恐ろしさに声を上げ、意味もなく少しの間叫んでいた。
『……だ、ッ…やだぁ…………ッ、中也さん、どこ…っ……?』