第9章 天からの贈り物
何とか身体を寸前で逸らしたから掠った程度で済んだものの、ただでさえ攻撃が早くて威力の高い中也さんの汚濁形態だ。
軽く腹部の左側の四分の一程度に、ぽっかりと抉り取られてしまったような穴が空いた。
悶絶する程の痛みに耐えられず中也さんの首に腕を回して寄りかかるも、目の前の彼はいつもの彼じゃない。
笑い続けるその笑顔が私の事をちゃんと捉えてくれていなくて、そして何よりも、再生していきはするものの気絶してしまいそうな痛みが走った腹部のせいで、生理的な涙が頬を伝った。
私だと分かっていないのにどうしてか私を跳ね除けずに抱きとめる中也さんの手にほんの少しだけ怖くなり、それで更に涙が溢れ出した。
いつ、攻撃されるか分からない…最悪殺されてしまうかもしれない。
だけど、そんな事よりも、目の前の彼が死んでしまうことの方がもっともっとあってはならないことだった。
中也さんの命は、一度きりのものなんだから。
身体に穴が開けられたのがなんだ、それを含めて、中也さんを助けられるかもしれないのなら、全然良いじゃないか。
口の中に鉄の味が逆流してくるのを何とか吐かずに耐えつつも、それはやはり唇を伝う。
『……ッ、慣れ、てる…これくらい…………っ____』
血が口の中に来てくれた、意識を失いそうになるのと引換に、中也さんを救えるかもしれない私の血液が、来てくれた。
中也さんが、出してくれた。
自分でも吐き出しそうになるほどの量の血液を、それこそ無理矢理、中也さんの口の中にねじ込むように舌を入れて隙間を開け、一気に彼の口に伝わせる。
流石に量が多すぎて飲み込まざるを得なくなったのか、汚濁形態なのにも関わらず、中也さんが喉を鳴らしてゴクリと血液を飲んでくれた。
これできっと、“状態異常”の一種とみなされるはずの汚濁形態は解除される……そう考えると身体から力が抜けて、膝からガクッと崩れ落ちた。
中也さんに回していた腕にも力が入らなくて、地面に衝突するように…
「____……〜〜〜ッッッ!!!!!」
『!!?…い、ッッ……っああ、ッッ…!!!!』
落ちるはずだった。
しかし私の身体は下に着く前に無理矢理支えられて、それと一緒にまだ治りきっていない腹部に、今度こそ気を抜いていたからか、悶絶するような痛みが貫いてくる。
痛みに声を上げれば、ふわりと私の身体が宙に浮いた。