第9章 天からの贈り物
少し情けない声になってしまったけれど、ナサニエルさんの方を振り返ると、彼はようやくどういう事なのかがあらかた分かったようで、私の目をジッと見る。
「随分と疲弊されているように見えますが」
『ひ、久しぶりに使ったんで成功してちょっと安心して…大丈夫です、ちゃんと全部治しますから。中で折れてしまった骨も切れた筋も、他の能力と組み合わせながら治していきます』
ただ、本当に集中しなくちゃならないので、と続ける。
『勝手ながら、外を見張っていていただいても大丈夫ですか?……誰かに話しかけられたりしたら、それこそ疲れが出て作業が出来なくなってしまいそうなんで』
「!…………分かり、ました。くれぐれもご無理はなさらないように…マーガレットを、お願いします」
コク、と一つ頷けば、すぐにナサニエルさんは外を見に出てくれた。
ありがたい、ちょっと気を抜いたらすぐに休んでしまいそうだったから。
少しだけ熱くなった顔を手で一瞬冷やしてから、まずはマーガレットさんのカルテと照らし合わせながら、骨折した箇所の骨を全て壁で形作っていく。
勿論中を見る事なんて出来ないため、彼女の身体に直接触れながら……最早これは感覚だ。
自分のものならばともかくとして、人のものともなると本当に時間がかかる。
固定具や包帯を次々に外していきながら、骨の形成、細胞の移植、次に筋の形成、移植と続けていく。
壁で型どってある程度元の状態に近い状態を形作って、そこに細胞を移植して元あった通りの状態に復元させていく。
骨は流石に治るのに時間はかかるため、細胞の移植を終えた後にすぐさま筋を修復して固定し、元々つけてあった固定具をまたつけ直して次の場所へと移っていく。
壁と移動能力、そして経験と感覚を最大限に使い続け、火傷や擦り傷、貫通した怪我など、全ての外傷を塞ぎきった頃には、もう自分の体力もへとへとになっていた。
『…………お、わっ…た……』
首元の外傷を治し終わり、全ての傷が塞がれたのを確認して、マーガレットさんの横になっている寝台に頭を預けてポフッと音を立てる。
驚く程に頭が回らなくて、驚く程に身体を動かそうと思えない。
気を抜きすぎると誤って呼吸する事も忘れてしまいそうな程だ。
浅い呼吸を繰り返し、高温になった自身の身体に寧ろ寒気がして、羽織ったままの中也さんの外套を弱々しく握りしめた。