第2章 暗闇の中で
蝶が寝付いた後も、俺の頭から煩悩と言う名の蝶の体に関する想像は消え去ったが、頭の中は蝶の事でいっぱいだった。
今日聞いた話から、特定出来ればいいのだが…
勿論、実験者のあの男にしてもだが、何より気になったのは蝶を海に引きずり込んだとかいう厄介な異能だ。
もしも、万が一、そいつらが再び蝶を狙ってきたとしたら?
そして蝶を拘束するためのその鎖を、まだ持っているとすれば…
「…俺がいつでもくっついてやれればいいんだがな」
そして再び、相手の異能についての考察に入る。
確か、海の中から触手のようなもので引きずり込まれたと言っていたな。
“触手”というキーワードだけで目の敵にするのは杞憂かもしれないし失礼にあたるだろうが、あの黄色い超生物も一応は警戒しておいた方がいいだろうか。
「にしても、今日はいつにも増して凄かったな、こいつ」
何が、と聞かれれば愛情表現がとしか言い表しようがない、言動からスキンシップから、全ての蝶の行動がだ。
首領も首領で茶化すから蝶だってあんなノリになって…
しかし、俺の事を分かっている首領だからこそ、あのような態度なんだろう。
それもこれも、蝶があまりにも“あの女”に似ているせいだ。
あの女と出会ったのは一度きり、それもほんの一瞬の事だったのだが、俺はそいつに心を奪われた。
背は…人より小さな俺よりも小さかった。
丁度、今の蝶からもう少し背を伸ばした程度だったと思う。
任務を終えたはいいものの、少し深手を負って…東京あたりにいた時の事だ。
薄暗い裏路地で、キズ口から血を流して座り込んでた俺の元に、いつの間にか現れた真っ白なそいつは、キズを治して音もなく去っていった。
幽霊か何かかと疑いもしたが、何よりも治っていたキズがあの女の存在を証明している。
それからその女を調べて、その日に俺がいた路地付近の東京の情報を集められる時に集め、たまたま怪しい研究所を発見した。
女の為にそこまでやるかと思うほどに、当時の俺は怪しい施設は全て調べてきていた。
そしてその研究所に潜入した時に、遂に見つけたのだ。
でかい水槽の中に入れられた、あの女の写身のような、小さく真っ白な少女……蝶に。
妹?親戚?何でも良かった。
馬鹿らしいことに、水槽の中の少女に俺は魅了されてしまったのだ。
結局あの女の手掛かりは無かったのだが。