第9章 天からの贈り物
私が医療器具や刃物の類が嫌なこと、暗いところや男の人に…人に慣れていない事。
生きる事にも死ぬ事にも、怯えきっていたこと。
私が死ねない事。
全部全部、驚く程に中也さんは、私が言っても全てをその都度受け入れてくれていた。
驚く事も混乱する事もせずに、ただただ一緒に生きようと、一緒にいようと受け止めてくれた。
そして私が言うまでただの一度も、私に刃物を持たせたり間近で見せたり、医療器具の類のものを近づけられる事が無かった。
しかしそれと同時にまた、中也さんの方から何かを聞かれるというような事も、殆ど無かった。
『……たま、たま…?でも、私のデータなんか大量にあったはず…』
どれだ、中也さんが見たものは。
いったいどの実験だ、あの人が見ようと思ったのは。
書面?画像?映像?音声?
どれでもいい、そしてどれも、決して人に見せられるようなものではない。
「少なくとも驚かなかったんなら、卵子に関する分は見てるって事なんじゃないかな?」
『!!あんな酷かったやつ、まともな精神で見られるわけッ…』
自分でも深く思い出したら発狂してしまいそうなものだ。
ポタポタと目から雫を零して、それを堪えるほど力も入れられなくなるような…ただでさえ死ぬのが当然の私の実験の中でも、群を抜いて殺された回数の多い実験の一つ。
「……まあでも、それを見た上で蝶ちゃんの事を大事にしてきたっていう可能性は無いことは無いと思う。あの男ならそれもやってのけてしまいそうな気がするよ」
『どれ、だろう…せめて文書だけならいいんだけど……どこまで中也さん、私の事知ってるんだろう』
「流石にそこは本人にしか分かんないね…でも、あの人が言ったんなら、本当に蝶ちゃんと一緒にいる事が一番の幸せなんだと思うよ?あの人の性格は君が一番理解してるだろう」
中也さんは、思ってもいない事なんて言わない人。
良くも悪くも、思った事が口から出てしまう人。
『………ちょっと、気分悪くなってきた』
「いらないこと言っちゃったかな、ごめん…でも、何か食べてくれなくちゃ僕も心配なんだ。流石にデザートだけじゃあ栄養偏るし、貧血体質なら余計に必要だよ」
トウェインさんの声に何とか下ろした箸を持ち上げて、恐る恐る、一口食べる。
『…ごめん、美味しくないわけじゃないの。でもやっぱりお腹に入らない』
