第9章 天からの贈り物
山小屋の中に待機しては作戦が実行出来ず、テントだなんてものを張っては気づかれる可能性もある上に、そこで休んでいる内に敵を見逃してしまうと意味がない。
『……いや、お気持ちはよく分かるんですけどね?でも流石にここすっごい山奥なんですよ?』
「うん、だから早く女の子は帰りなさい。ただでさえそんな足元冷えそうな格好なんだから」
『私外套あるから全然平気なんですけど…ああもう、今回は特例ですからね、特例。普段こんな使い方絶対しないですけど、流石にこれだけの人が野宿とか見てられませんし』
何をするつもりなのか、と聞かれる前に、大きく、しかし少し薄めに、球状に壁を展開する。
地面に着く部分は地面の草木を踏みつけない程度に地面と水平に壁を変形させ、いわば自然的影響を一切受けないようにするだけの、簡易的なドーム型のテントだ。
『ほら、これなら敵も見えるでしょうし、テント代わりにでも使ってください…作戦が円滑に進められるよう、あと二箇所程張りますから』
「これも、君の能力かい?こんな便利な使い方があるもんなんだね」
『普段なら絶対こんな使い方しないですけどね。じゃあ後は…あそこの銃の裏と、そっちの木の傍にしましょっか』
ジョンさんに承諾を得てから同じように簡易テントを創り出し、本当に野宿をするつもりだったのか、ジョンさんの支持で寝袋や衣類、食料などが壁の中に持ち込まれる。
『いつでも出入りできるよう、出入口だけは空けときますから、もし肌寒かったりしたらビニールシートか何かで塞いでくださいね…私もちょっと、一休みさせてもら……ッ』
「!君っ!!」
『あー…ごめんなさい、最近ちょっと鉄分不足だったから……やっぱりちゃんとご飯食べないとダメですね』
グラリと倒れかけたのをジョンさんに支えられて、クラクラする頭で意識をなんとか繋ぎとめる。
組合の拠点に滞在し始めてから食べたものといえば、正直な所甘いもの以外に殆ど記憶にない。
ルーシーさんやフランシスさんに心配されつつも、甘い物を食べたから大丈夫、あんまりご飯は普段から食べないなどと嘘をついて、食欲が出ないのを誤魔化してきていた。
いつもだって壁を満足に使えるように、鉄分はかなり摂るよう心がけていたのだけれど。
『まさかこの薄さのやつ三つでここまでなんて…本当、中也さんがいないとダメなのは私の方だなぁ…』