第8章 空白の時間
身体がリセットされねぇよう蝶の身体に血液型の合う奴の血液を流せば、何故か蝶が死んでしまった。
理由がわからず何度か同じ事を繰り返して、何度目かになって蝶の血液を採取してみたところ、他の血液に触れさせると瞬時に凝固してしまう事が分かったのだ。
蝶を連れてきたばかりの頃、森さんにこの事を報告すれば、誰かの血液で対処できないか調べてみるということで、血液のサンプルを提出した。
蝶を、もしもの時に死なせたくはなかったから。
「でまあ、そこでたまたま…なんでかは知らねえが、俺の血液と触れさせたものだけが、固まらずに液状のままでいられたんだ」
更に幸運は重なって、俺もあいつも血液型はB型同士。
俺とであれば輸血が可能であるという事実を知った時、ようやく小さな頃の蝶は俺に心を開き始めてくれたということをよく覚えている。
「……っ、今聞いたのだけでも、一つの実験なんすよね…?」
「ああ、今のでもまだたったの一つだ。まあ流石に全部が全部こんなもんってわけじゃなかったが…こういったレベルのもんも、これだけの実験の中にならいくらでも紛れてやがる」
立原がカーソルを移動させて、何をしているのかと思いきや、映像のフォルダにカーソルを合わせていやがった。
「…………やめとけ、今の状態でそれなら、頭おかしくなんぞ」
「だ、だけどっ…」
「いいからやめとけ。俺もたまに思い出してトラウマになりかけるレベルのもんだ…見るならせめて、普段の生活の様子くらいが限界だろ」
カーソルを動かして、普段の生活の様子と唯一言うことが出来る、この中では一番静かで穏やかな映像を選択した。
流れ始めた映像に映っていたのは、円柱状の水槽。
あの日…この場所に乗り込んだ日、一番緊張してぶっ壊した檻。
「水槽…?……なん、すか…!すんません、不謹慎ですけど…」
「ああ、よく分かる。俺だって実際見た時もそう思っちまったよ」
今より少し成長した、二十歳手前辺りの姿の蝶。
髪は前髪も長く伸びており、相変わらず、俺の思うことはただ一つだった。
すらりと伸びた手脚、女らしさを感じさせる色白な肌に、体格…長い髪のおかげで大事なところは全てなんとか隠れていたが、それが逆に神秘的にさえ見えた。
「…………綺麗、っすね…初めて見た時と同じ気分です、今」
「本当、いつ見ても、どんな時でも綺麗だよあいつは…」