第8章 空白の時間
「何やらあいつの身体にどうすれば決定的なダメージを与えられるのかも研究してたらしいから、それと並行するついでに卵子の事も調べてたんだろ」
「酸で焼き続けるって、んなもん普通の人間でも十分……あいつの体質を考えると、常に切り裂かれた傷口を焼き続けられて…っ!?」
「そういう事になる。他でもこういう事は普通に行われていたらしいから…まああいつが痛がりにもなっちまうんだよ」
注射が恐ろしいのは、元々好きではないというのも勿論ある。
しかしあいつは、麻酔をよくされていたのを思い出して怖がっているわけじゃあない。
「蝶にとっちゃあ、麻酔を打たれてからの方がよっぽどの地獄だったんだろ。今でだってあいつの身体にゃ麻酔の類は効きにくい…死んでリセット出来ずに、普通では味わう前に死んじまうような事をされ続けてたんだ」
後は酸や熱した金属を使いながらなんとか卵子と子宮まで辿り着き…器官を丸々、取り出した。
そこまでたどり着くのにもかなりの時間と労力がかかっていて、ようやく子宮と卵子を取り出してから、そこでまた新たな事実が発覚する。
「これは俺もかなり驚いたんだが…不思議な事に、再生を始めたあいつの身体の中には、新たな卵巣と子宮が出来ていた」
「なっ……は、っ…!?」
勿論取り出されたものが消えるなどということもなく、とりあえず器官までもが新しく作り出されたのだと記録をして、蝶の子宮と卵巣を取り出した状態で切り開き、無残な調べ方をしていた。
それを、全て蝶は見ていた…見せられていた。
お前は人間ではない、ただの奇妙な化物なのだ、生きている価値も死ぬ価値もないただの器だと、散々に罵られて、自分の身体の中にあった器官がすぐ目の前で切られ、まさぐられ…検体が足りなくなれば、再生してしまうのを…死ねないのをいい事に、何度も何度も取り出される。
「んで結局、そこには卵子なんてもん…どころか卵胞すら発見されなかった。……ってところで終わればよかったんだが、このイカれた科学者は徹底的に蝶の身体中を順番に切り開いて、同じように調べ上げていったんだ」
「切り開いてッ……っ、すんません、ちょっと…」
気分が頗る悪くなったのだろう、頭を押さえる立原に、気にすんなと一声かける。
「皮肉な事に、あいつの身体に輸血をするといけねえってのが判明したのも、この実験の副産物だったんだがな」