第8章 空白の時間
まず出てきたのは長ったらしい文書。
そこには勿論全ての内容が事細かに書かれているのだが、読むのも気が滅入ってくるような量であるため、立原には要約して伝える事にする。
「まあ、これは中でも結構エグいもんだが…聞くか?」
「……はい」
蝶がどんなもんを抱えてきているのかを少しでも理解したいのだろう。
立原に説明していったのは、どのようにして卵子の有無を調べ上げたのかというものだ。
「まず、初めは女が不妊治療なんかでする検査をした…とかなら良かったんだがな。何分この研究者はモラルに欠けすぎている」
「え、排卵の周期を待ってとかじゃ…」
「いんや、俺はこの書面を見ながら映像の方も一緒に見てたんだが……確認するっつった瞬間に、蝶の腹が切り裂かれてたさ」
言った途端に立原は目を大きく見開いて、固まった。
「は……っ?いや、切り裂かれてたって…モラルとか……」
「…それが嘘なら良かったさ。だが俺も、実際に幾つもそんな実験の記録を見てきてる………それで、話を戻すぞ」
蝶の身体は、外傷が与えられるとすぐに再生するようになっている。
だから少し切り裂いたくらいじゃあ、卵巣にたどり着く前に傷なんか塞がってしまう。
そこまで説明し直せば更に立原は冷や汗を流す。
「そっからだ、この実験で蝶が“死に始めた”のは」
「死に始めたって…」
「まあそもそも、驚く事に実験をしてた奴らはな。あらゆる手を尽くしても本当にどうしようもない時くらいしか、蝶に麻酔を打ってやらねぇ」
言えば口元を押さえる立原。
そうだ、想像するだけでも、俺でも恐ろしくなるようなもの。
「そんな状態で腹を切り裂いて…それでもあいつの体質のせいで生命力だけは強かったんだ。だからそれより先のものにも耐えることが出来ちまってな」
最初は再生に追いつけるようにと切りつけ続け、ショック死。
それを幾度か繰り返して麻酔を使ったかと思えば、卵巣に辿り着く前に再生しきってしまうか、出血多量で心臓が止まる。
「何、回も…ッ?」
「ああ、何回もだ……それで次の段階に進めたのか、今度は薬品を使い始めやがった」
薬品?と恐る恐る聞く立原に、俺も詳しくは分からねえが、何種類もの酸を用意したらしいと返す。
「酸!?まさか、それであいつの再生する肌を焼き続けてっ……!!」
「ああ、持ってる酸の種類だけな」