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第8章 空白の時間


無慈悲にも扉は消え去って、その場には一羽の白い蝶がヒラリと舞ってスウ、と消えていった。

「何が気付いてねえだよ…ッ、気付いてねえのはお前の方だろうが……!!」

「あ、あの、幹部…?俺、ちょっとっつうかかなり頭が混乱してんすけど」

ピクリと立原に反応して、なんとか自分を落ち着かせるように怒りを沈める。

「……確かにポートマフィアじゃあ俺と首領と姐さんと…あと知ってたのは芥川と死んだ構成員の一人くれえか。手前の執務室で話してもいいか」

「!は、はい…」

ツカツカと立原の執務室に向けて移動しながら、立原は余程の驚きが重なっていたのだろう、動揺を隠せてはいなかった。

「分かんねえ話が多すぎて……つうか身体ん中に卵子がねぇとか、有り得るんすかね?って幹部に聞いても…「あいつの身体ん中には、確かに卵子はねえ」分かんないっすよねやっぱり……ってええ!!?」

「俺はあいつの人体実験のレポートを隅々まで読み込んでる人間だ…かなり残酷な実験方法だったようだがな。あいつの身体ん中に卵子が存在してねえ事くらい、あいつと出会った日に知ってたさ」

言えば立原は更に驚きを隠せなかったようで、冷や汗を流していた。
首領といいハニートラップの英語教師といい、やはり普通はここまで驚くようなものなのだろうか。

「え、っいやいや幹部…蝶と出会った日っつったら、幹部ってまだ……」

「あ?お前もそれか…丁度今のあいつと同じ歳ん時だ。卵子の話に関しちゃ俺以外には首領しか知らねえが………あいつの前で餓鬼なんつーもんを意識させねえようにしてたのもそのせいさ」

まさか本人の口から言わせてしまう事になるとは思ってもいなかったが、さっきの様子じゃあ相当俺の事を想っていたようだった。

蝶がいったいいつごろから俺の事をそういう風に見始めていたのかは、正直よく分かっていない。
しかしあいつ自身が、確かに憧れていたと口にした。

口に、させてしまった。

「ま、まさかそれで最後までせずに耐えてたっつうんすか!?」

「当たり前だろ、そこだけはあいつに悟らせちゃならねえし…俺からいきなりそんな事を聞くわけにもいかねえ」

立原の執務室に無言で立ち入り、デスクの前の椅子にドカッと座る。

「あークソッ、もしかしてそれで余計に伝わってなかったのかよ…つか半分以上は自業自得か。……まあ、とりあえず話すぞ」
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