第8章 空白の時間
「だから、お前は勘違いしてるって立原も言ってただろうが。…全員が全員、誰かと結婚して子供を作っていくことを一番の幸せだとでも思ってやがんのかお前は」
『中也さんはまだ知らないだけだよ…どうしたって私の方がちゃんと見てきてるんだからっ、私の方が生きてきてるんだか……ッンっ…!?』
立原がいるというのに唇を塞がれて何も言えなくされ、少ししてから離される。
「……俺が、ここまでしてお前と一緒にいたいんだぞ?確かにお前からしてみりゃ俺なんかまだまだ知らねえ事や経験してねえ事だっていっぱいあるだろうが…お前が俺の事を知ってる年数は俺と同じなだけのはずだ」
『!!…っでも、でもねッ?中也さんがちゃんと幸せになってくれないと……私、ただでさえこんな変な身体なのに………っ』
「俺の幸せは結婚でもなければ誰かと籍を入れる事でもねえし、餓鬼が欲しいわけでもねえ…お前がいなくなって、なんで俺が幸せになれんだよッ…」
何度言ってもやっぱりそればっかりで、中也さんは私に執着する。
私が中也さんの記憶の中から私の事を抹消させれれば、こんな事を言わなくっても済むはずなのに……なのに、この人の記憶の中から、私の事を消したくなんてない。
普通に幸せになってほしいのに、そこまでの勇気が私には無い。
こんなわがままばっかりで、結局言葉でも分かってもらえない。
しかしそこまで考えて、やっと気づいた。
そうか、結婚したいなんて…籍を入れて、子供を作れるような身体が幸せだなんて……
『…………そ、っか…私が憧れてただけだ』
ポツリと漏れた本音が、酷く心に突き刺さった。
先程まで驚いてもいなかったような中也さんが何故かこのタイミングで酷く驚きを見せていて、ショックを受けたような顔をする。
なんで?どうして中也さんが悲しむのよ…なんで私の事、そんなに考えてくれちゃうのよ。
「蝶、お前いつからんな事ばっかり考えて……ッ蝶!!」
どうしようもなくなった気持ちを隠すように、能力で中也さんの腕の中から抜け出して、エントランスに移動する。
『……見て見ぬふりしてただけなの。本当、はねっ?中也さんにッ、普通の身体をあげたかったのッ』
告白紛いの事をしながら、白い扉を創り出した。
「!待てっ、まだ話は終わって…」
『中也さん、気付いてくれないだろうから、全部言っちゃった…____またね』
