第8章 空白の時間
私の言う普通じゃないというものが、傷がすぐに治るといったものだと思ったのか、立原が間に入る。
「ちょっ、とりあえず幹部も手離してやってくださいよ……っ、蝶も馬鹿みてえな事言ってねえで落ち着け!なんで普通じゃないとかって…お前が幹部と離れたいなんて思ってねえことくらい、俺だって分かってんだぞ」
「……籍とか子供とか、誰かに何か言われたか。俺は生憎、そんなもんに興味はねえし、お前以外と一緒にいようなんざこれっぽっちも思わねえ!!なのになんでお前が…」
手を離されて身体の緊張が解けて、もういいやとどこかでヤケになった。
立原もいるけど、立原なら別にいいや。
中也さんには一番言いたくなかったけど……言わなきゃ、こんな風に私の事しか考えなくなっちゃうから。
『私、どうやっても死ねないような変な身体なんだよ?こんなんじゃ籍なんて作れないし、中也さんに頼らないと普通に生きてもいけないの…ッ、どうせまた皆バイバイしないといけないの!!それなら、せめて普通の人と幸せになってよ…っ、戸籍も普通の身体も持ってる人と結婚でもして、幸せに過ごしてよ!!』
「え、っと…?蝶?お前さっきからいったい何言って……」
後で中也さんに聞いてと立原に言い捨てると、中也さんは相変わらずの様子でどこか興奮していた。
「だから、俺は別に誰かとそんな風になんざなるつもりはねえって…そんなもんあったって、お前がいなけりゃ意味がねえだろ」
『私としかいないからそう言うの……っ、ねえ中也さん、私好きな人がいるの。恋人になって、普通の人みたいに結婚だってしたいなって思うような人が出来ちゃったの』
予想よりもあまり中也さんは驚いていなくて、それならなればいいじゃねえかと、そいつと一緒になればいいじゃねえかと返される。
「相手だってそう思ってるかもしんねえだろ、だからそれならお前が我慢なんかしなくても…」
『……ッ、戸籍も無いのっ、作りようがないの…………中也さん知らないだろうけど、私っ、身体の中に卵子も無いの!!!…誰にも、普通の幸せをあげられないような身体なの…ッ』
「卵、子が……っ?」
立原の驚いた反応…これが普通の反応だろう。
そうだよ、それが普通…なのに、どうして?
『な、んで…っ、なんでびっくりもしないの……?なんで私といようとするの?』
中也さんに、優しく抱きしめられた。
