第8章 空白の時間
『ナンパ??』
「……まあいい、とりあえずお前はただでさえ目を引くような外見してんだから、特に今日みてぇな格好は隠しとけ。俺がまたお前ごと外套なんか取りに行くから」
『う、ん…?……中也さんのにおいがする』
外套を手でキュッと握って羽織り、中也さんの香りに包まれて一人で顔を緩めていると、中也さんの顔まで赤くなっていった。
「一々嗅いでんじゃねぇっつの……つうかワンピースみたいになってんぞそれ」
『じゃあ今私、中也さんで全身包まれてるんだね』
「ブッ__!!?」
吹き出して噎せた中也さんにあれ?と首を傾げつつ、手を引いて執務室を出る。
夏場によくこんな外套羽織ってられるよなぁ、なんて思いつつも、程よいあたたかさに安心した。
フロントに出るとそこには立原が壁に背を預けて立っていて、私が気付いたのとほぼ同じくらいに向こうもこちらに気が付いた様子。
「幹部、本当に…?…俺、今かなり自分の非力さが情けねえっすわ」
「お前のせいじゃねえよ、それに十分力は持ってんだろ。今度組合の拠点に仕掛ける時に思いっきり暴れてやりゃあいいさ」
「そ、うっすね……折角蝶がそう出来るようにしてくれ、て…………あの、幹部?」
何だ?と立原に返す中也さんとは対象的に、立原は酷く焦った様子で中也さんを見て、どこか顔を赤くしている。
「そ、そのっ…首元は……いったい?」
「あ?首元って……ああああ !!?わ、忘れてた…っておい蝶、何嬉しそうにしてやがる!?」
『いっぱい付けたのに中也さんが隠しちゃうからそっちにもしたんじゃないですか。ていうか教えたの中也さんなんだから』
「教えっ!?幹部、こいつにキスマークなんざ教えたんすか!!?俺が折角誤魔化して連れてきたのに!!」
何故か少し怒ったような立原に中也さんも言い返せないようで、中也さんの外套を持ったまま首を傾げた。
「い、いや、だって付けられてたら嫌だろ?だから上書きしてやったら何なのか聞かれて…馬鹿正直に話したらびっくりするくれぇに食いつかれた」
「……因みにどんくらい付けられたんすか?こいつ、さっき初めて知ったんすよね?」
「…………ざっと三十箇所近く」
その瞬間立原が私の方をバッと見て、それと一緒に照れたように顔を片手で押さえる中也さんにご満悦になった。
「末恐ろしい…」
『誰にもあげないの~』
