第8章 空白の時間
私の服装を正して、何かに気付いた中也さんが口を開く。
「あー…クソッ、どうしたもんか……」
何故だか赤くなっている中也さんの顔がもっと見たくて、上体を起こして顔を合わせる。
『何が?』
「何がって、キスマー…!!?なんでお前んなとこにっ…」
慌てて顔を仰け反る中也さんにちょっとだけむっとして、中也さんの首にもう一度口付ける。
「んなッ!!?お前まさかまだ…っ……!」
今度はカプ、と甘噛みしてからチウ、と吸った。
『…中也さんは私のだから。こっち側なら髪下ろしてないし、見えるかなって思って』
「こんっの馬鹿ッ、さっきまでのだけでも隠すの大変なのになんてとこに付けやがって…」
『……嫌?』
「!………いや、正直すっげぇ可愛い」
予想だにしていなかった返事が聞こえて、バッと顔を上げる。
『もっと付ける?いっぱい付ける?』
「お前俺ならあんま痛くねえからとか思ってんだろ」
軽くペシ、と頭に手刀を落とされて、アタッと声が出る。
どれだけ力加減をしたのか、やはりそんなに痛くはない中也さんの攻撃に、特に意味もなく頭を擦る。
『……決めた。中也さんの全身私の印でいっぱいにするの、将来の夢にする』
「リアリティあり過ぎて笑えねえぞそれ、つかんな事されっと流石に俺も照れ……ッ、ああああ、ほんっといらねえ事教えちまった!!!」
『全部キス魔の中也さんが悪い』
「ご最もすぎて反論できねえよ、物覚え良すぎなお前!!」
貶してる風の口調のくせして何故だか最終的に私を褒め始める中也さんは、勘弁してくれと言うようにいっぱいいっぱい頭を撫でる。
『えへへ~…拠点から出るまで、一緒に行こ?』
「!!お前…ああ、いいよ。お前のおかげで仕事もちゃんと進みそうだ」
苦笑いになる中也さんの顔を見ていると、本当に精神的に結構なダメージがあったのだなと改めて感じた。
「実を言うと結構キツかったんだよ…進めようとしてもお前がいてくれればってばっか考えてたし、全然仕事に手も付きやしねぇ」
『……中也さんは私がいないと素直になれないもんね?』
「…うっせぇ、それはお前もだろ」
悪戯に笑ってソファからおりると、中也さんも立ち上がる。
そして何を思ったのか、自身の外套を脱いで、私の肩にフワリとかけた。
「虫除けだ。街中でナンパでもされっと面倒だからな」
