第8章 空白の時間
「はっ!?んな恐れ多いことっ」
『いいから。大丈夫、立原に手出すようなら私がお説教しとくから』
鬼かよお前、幹部にゃ一番効くだろうなそれ…
立原は私に促されて、渋々といっように扉に手をかけ、恐る恐るそこを開けた。
「失礼しまー……ヒッ!?」
「…手前、返事もしてねえのになんで勝手に入ってきやがった」
中也さんは普通に起きていたらしく、最高潮に不機嫌な声が低く響き渡る。
これは相当不機嫌だな、なんて呑気に考えつつも、死んだ人達の手続きやら何やらを全て一人でまとめ上げているんだ。
かっこつける準備をする暇も与えずに…気分がかなり滅入っている時に、入ったんだ。
やっぱりいたじゃん、悲しいまんま。
誰にも弱音も吐けないまんま、一人でかっこつけようとしてたんじゃん。
「い、いや、幹部から返事が無かったんで何かあったらいけねぇと……っ」
私が入れって言ったって言えばいいのに、なんで私のせいにしないかなこの阿呆の子は。
「だからってな手前、勝手に入ってきていい理由には…?おい立原、手前…」
ふと、中也さんの口調や雰囲気が変わり、不機嫌なオーラが無くなった。
「えっ、なんすか!?俺への処分なら出来ればまた今度にしていただけると有難っ…か、幹部!!?」
足音を鳴らしながら無言で近寄ってくるその人に、こちらの心臓までドキドキする。
大丈夫かな、私の事、どうでもよくなっちゃってないかな。
……嫌いになられて、ないかな。
嫌な想像ばかりが頭の中を埋め尽くしていって、腕にまた力が入った。
そして中也さんの足音が止まったと思った時
『……ッ、?』
頭にポン、と手を乗せられて、ギュ、と目を瞑った。
「………立原、すまねぇ。こういう事か」
「え?…は、はい……、さっきたまたま外で出会って、無理矢理言い聞かせて連れてきました…でもよくこの状況で気付けましたね」
「阿呆、俺がこいつを見て気付かねえわけねえだろ。俺がどんだけ…つかこんな綺麗な髪が見えりゃ、すぐにこいつだってくれぇ分かんだろ」
中也さんの言葉に色々と聞き返したくはなったものの、慈しむようなその声に、私を撫でるその手に、また涙が込み上がってきた。
「お、俺最初見かけた時指輪見るまで気付かなかったのに」
「年季が全然違ぇんだよ年季が、俺はこいつの見た目が変わっててもすぐに気付く自信あんぞ」
