第8章 空白の時間
中也さんがあれだけ強いのに、幹部の中では人より部下思いな人であるということは、ポートマフィアであの人と共に仕事をした事がある人ならば皆がわかっている事だ。
そしてそれは立原も例外ではなく、あの人が本当に色んな人から慕われている人なんだと再認識して、少し口元を緩めた。
「…そうだな。てっきり俺は、あの人がいねえとお前がダメなのかとばかり思ってたが……今思えば逆の方もでけえか」
『ん…私がいないとすぐに一人で我慢しちゃって、かっこつけちゃうの。だから、今回の戦いが終わるまで、中也さんのことよろしくね』
「本当に戻らない気か?」
『中也さんから聞いたの?…うん、組合の方にも色々あるからさ。私の事は、どうせ助けに来てくれちゃうだろうから…組合の人の手助けをしたいってところもね、ちょっとあるの』
ピタリと足を止めて、手助け?と聞き返され、うんと答える。
『やり方はあれだけど、悪い人達ってわけじゃないの。今回のもまあ…言えないけど、本当ならこんな風に争わなくたってよかったことかもしれないし。だからね、助けに来てもらうまでは戻らない』
「お前、今戻ればもう捕まえさせたりなんかさせねえよう、一緒にいてやれるんだぞ?幹部とだって一緒に『やめて』…でもよ、」
『どの道組合の目的が達成されるか、拠点とトップをどうにかするかしないと、横浜がそれどころじゃないでしょ』
それに相手はあの首輪を持ってる。
壊せばよかったのかもしれない。
でも、どの道私が戻ってちゃんとあの場所を知らせなければ…助けに来てもらわなければ、組合はいつまでも追ってくることが出来てしまう。
『ちゃんと決着つけなきゃ、どの道終わらないんだから…それに、助けに来てくれるでしょ……?』
「……んな震えながら言われたって説得力ねえよ」
『震えてないし…ちょっと気が抜けただけだし』
「馬鹿か、俺如きにそんな安心するくれえには参ってんだろが…着いたぞ」
立原の声に緊張が糸を引いて、キュ、と立原に回した腕に力が入った。
こんな事前もあったっけ、中也さんの部屋に立原と一緒に来たこと。
なんて考えていれば立原が扉をノックした。
「幹部、立原です。今大丈夫っすか……幹部?」
いつもなら、仕事中でも返事をするはずの中也さんの声は返ってこない。
『……立原、何かあったら私が責任取るから、ここ開けて入って』
