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第8章 空白の時間


中也さんの異能でふわりと身体が移動して、すっぽりと彼の腕の中に収まる。

抱きとめられて、大事に大事に包まれて、それを見てか立原はじゃあこの辺で失礼しますねと執務室を出ていってしまった。

「………まさか来てくれるとは思わなかった。よかった、来てくれて…っ」

『……暗くなったら、また戻る…けど、それまでなら』

「!…ここにいてはくれねえのか?もう、無理する必要ねえんだぞ」

中也さんの腕に少し力がこもる。

『ん…今回の件がちゃんと片が着くまで、待ってるから。……中也さんが終わらせてくれるの…組合から攫ってってくれるの、待ってる』

ゆっくりと、久しぶりに中也さんに腕を回した。
怒ってるかもしれない、でも嫌われてない。

それだけで、よかった。
会えただけでも、よかった。

「お前今、俺の事……っ、記憶、戻ったのか?」

コクリと頷いて、更に中也さんにギュッと抱きつく。

やっぱりここが、一番好き。
身体がちゃんと、覚えてる。

「そ、うか…そうか……ッ、よく戻ってきてくれた。よかった…っ」

『…子供の頃の中也さん、かっこつけすぎて結構キザだったよ』

冗談めかしてそう言うと、中也さんはお構い無しに私の頭をいっぱい撫でる。

「うっせぇ、それでもお前、好きだろが」

『私よりずっと年下のくせに』

「俺よりよっぽどお前の方が大人になれてねえっつの。あと白石蝶は、まだ十四歳の年下の女だ」

『!……やっぱかっこつけ。ダメだよ、かっこつけてばっかじゃ』

今だって、立原の前でかっこつけて…

「かっこつけてなんかねえよ、俺は元からこんなんだ」

『嘘。…ほら、折角私が来たんだよ?泣きたい時に泣かないと、ちゃんとした大人になれないんでしょう?』

今度は私が中也さんの頭と背中をポンポンと撫でて、大丈夫だよ、私はここにいるよと安心させるように存在を確かめさせる。

するとやはりというかやっとというか、中也さんは少し声を震わせながら、私を撫でるのをやめてグッと抱き寄せた。

「うっせぇ、俺みたいなかっこいい大人は泣いたりなんざしねぇんだよ…っ、ちょっと悔しくて情けなかっただけだっつの……」

『うん。私今日、一回だけフロントを覗いたの…それだけでも中也さんが泣きたいの、分かったよ。私がいないと、ダメなんだから』

「泣いてねぇっつの…ッ」

『……うん』
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