第8章 空白の時間
「わ、悪いっ!そうだよな、いきなり触られても……って、どうした?怖がらせちまったか……!…指輪…………?」
首から下げていた指輪が今は剥き出しになっている。
それに私と一緒にいる事だって多かったはず。
私も声だけで気付けなかったために人のことは言えないのだけれど、ようやく相手側も私の事が誰なのかが分かってきたらしい。
両方の頬に手を当てられてそれにまた肩が跳ねて、ゆっくりと、しかし優しく、顔を上に向けられる。
何なのよ、いつもは荒事ばっかりしてるくせに……今私、人に見せられるような顔じゃないのに。
スッと前髪をかき分けられ、ようやく私も相手もお互いの顔を確認する事が出来た。
「お前…っ、蝶、か……?蝶だよなっ!?」
勢いよく言われて少し怖気付いてしまって、肩に力を入れた。
「あ、すまねえつい…髪下ろしてるしそんな格好してるから、誰なのか分からなかった。色が色だったからびっくりはしてたが……ってそうじゃねえ!!お前、なんであんな奴らに犯されかけて………ッ」
最後まで聞こうとする前に私を抱きしめたその人…立原に、更に身体に力を入れる。
『は、なしてッ…やだ、触らないでっ…』
「お前、危なかったの分かってんのか!?俺が気付かなかったらどこまでされてたか……っ、なんで助けを呼ばなかった。誰かが通ってるって分かってたんだろ…それにお前なら、あんな奴らくらい跳ね除けて…!」
私がまた泣き始めたのに気付いたのか、立原が私の顔を覗き込んだ。
『仕方、ないじゃない…だっ、て……また、されるって分かったんだもん、首触られたら、動けなくなるんだもん……ッ、また中也さんじゃない人にって…っ、怖かったんだもん…!!』
「お、前…またって、誰かにこういう事、されたのか」
立原の問いに肯定もしたくなくて、口をつぐんで目を逸らす。
「……そ、うだよな。そりゃあ怖かったよな…良かった、声に気付けて」
『っ、…手、離して』
悔しい事に安心してしまったのも束の間、すぐに今の状況を思い出して立原の胸を押す。
「何でだよ、お前が組合の拠点に捕まったって聞いてこちとらすっげぇ心配して……ッ、お前これ、誰に付けられた」
『これっ…?……って、何見てんのよ!!?』
「嫌でも目に付くだろ!?お前まさか気付いてねえのか!?」
立原に指さされたところには、紅い痕がついていた。
