第8章 空白の時間
「ってぇ…!?何しやがる!?」
「そりゃこっちの台詞だ、なんかこそこそしてやがんなと思ってみれば、何女連れ込んで無理矢理犯そうとなんざしてやがる?」
さっき通り過ぎてったはずだろ!?という男達の言葉によって、その人が先程の通行人なのだと理解した。
「悪いな、俺は耳が良いんだ。怖がりきってんのに喘がされてる女の声くらい、こんな人のいねえようなとこじゃすぐ分かる」
どうやら悪い人ではなさそう…しかし、こんな格好、見られたくない。
いやらしいところ、見られたくない。
助けが来たのすら怖くなって、何も考えられなくなる。
「はっ、ヒーロー気取りか何かかよこいつ?こっちは今上玉捕まえていいとこなんだよ。それとも何だ、五対一でやろうって……ん?まて、お前何で銃なんか持って…!?」
「何でって、知らずに大口たたいてやがったのかよ…俺はこれでも、ポートマフィアの武闘派組の十人長なんつうもんやっててな?」
ポートマフィアという単語にピクリとして、その後に続けられた言葉を頭の中で反復する。
武闘派組…つまりそれは遊撃隊の管轄の部隊。
「ぽ、ポートマフィア!?」
「お、おい!やべえんじゃねえか!?武闘派組っつったらあの黒蜥蜴だろ!!?」
「女より命の方が大事だ、逃げろ!!」
黒蜥蜴、そう聞こえたと思ったら男達は走ってどこかに行ってしまって、腕の支えを失い、重力に逆らわずそのまま地面に崩れ落ちた。
頭が真っ白になってとりあえず呼吸を整えようと、肩で息をする。
危なかった…また私、あの人以外の人にあんな事、されちゃうかもしれなかった。
「ったく、やましく思うんなら最初っからすんなっつの…おいあんた、大丈夫か」
その人がしゃがみ込んで私の着ている服を直そうと肌に触れる。
『…!!や……ッ』
しかしそれに異常な程に反応してしまって、男の人に触れられるのが怖くて怖くて仕方が無くて、肩を大きく跳ねさせて声を漏らした。
その直後に折角助けてもらったのになんて事をしているんだと思い出し、謝らなくてはと恐る恐る目を開けて、その人の方に顔を向けようとする。
だが、そこで分かってしまった。
そうだ、私を助けたこの人は、ポートマフィアの黒蜥蜴の十人長…武闘派組の中でも銃を愛用するような人。
なんで声で気付かなかったの、私。
見慣れたファージャケットについ目を逸らしてしまった
