第8章 空白の時間
「手前ら、俺の本気の喧嘩っつったら殺しにまで発展しちまう恐れがあるもんだぞ?んな事探偵社の誰かになんざ出来るわけがねえだろ、したところで首領に処分を下されるさ」
実を言えば何度か本気で相手をしかけたこともあって蝶には嫌な思いをさせていたという思いもある。
まあしかし、だからこそ本当にやってはいけないと、自分自身にその都度言い聞かせた。
拠点に戻りながら話せば立原は情けない声を上げてビビる。
「た、確かに…っ、つか蝶の奴が道標ってどういう事っすか!?そもそも攫われたって話だって初耳なんすけど!!」
「ああ、まあ攫われたのは…半分俺のせいみてえなもんだ。だがあいつは、攫われたというよりは自分から仕掛けに行ったんだよ」
俺の言ったことが何を意味するのか、広津さんと芥川の妹は察しがついたらしい。
「で、ですがどうしてわざわざ敵の拠点に捕まるような事を…?」
「ああ、そういや立原と樋口は知らなかったか。話があんまり出ねえように小さく留めておいてくれよ…あいつがいつも首につけてる指輪あるだろ。あれ、単純に言えば発信機みてえなもんなんだ」
俺の言葉にハッとして、蝶が何を考えていたのか全員が気が付いた。
不甲斐ねえ、あんなに小さくて怖がりなただの少女に、一人でそこまで背負い込ませて。
何が子供なんだからだ、何が俺が守るからだ、結局何も動けてねえじゃねえか。
連れ去られて、記憶がおかしくなるくらいにまで追い詰めて…結局また、泣いてるんじゃねえか。
「俺らが揃ってどうやって組合の拠点の位置を特定しようか迷ってるうちに、あいつは一番確実で尚且つ気付かれにくいような方法をとってくれた。……後は、俺があいつの信頼に応えてやるだけだ」
拠点に入ると、Qの呪いで死んだ部下達の死体袋が並べられている。
あの餓鬼のせいじゃねえ事は分かってはいるが、とんでもない事をしてくれた。
次、いつまた同じ事が起こされるか…
広津さん達は死亡者の確認と遺族の特定、そして俺は今回の件について、死亡した部下全員分の資料や書類を纏めあげてそれを首領に提出し、遺族がいない奴らの分の死亡届を作成する。
「………なんでこういう時にいてくれねえんだよ…お前がいてくれりゃあ、俺は強くなれんのに…」
隣にお前がいてくれれば。
お前が俺といてくれれば。
俺の悔しさも情けなさも、受け止めてくれるのに。
