第8章 空白の時間
「そ、そのっ、僕が見せられたのは捕まってどこかで拘束されてて…何故か綺麗なドレスを着せられた蝶ちゃんの映像で、何だか物凄く苦しそうに泣いていたんです。何かに怯えたように取り乱して」
「取り乱して?」
「はい、それでその映像は切られてしまったんですけど、僕がどこかの部屋に連れてかれてる最中に凄い悲鳴が聴こえて……組合の構成員に何かをされてたみたいです」
何か……何かって、何だ?
あいつは痛めつけるために連れて行かれたわけじゃないはずだろう、それがどうして悲鳴に繋がる?
胸のざわつきを無理やり抑え込んで、人虎から目を背ける。
「…………そう、か。さんきゅ、よく伝わった……人虎、教えておいてやる。あいつが大丈夫だっつってる時は大抵大丈夫じゃねえ時だ」
「!…じゃ、じゃあやっぱり一緒に来た方が……!?」
「いや、それはいい。あいつの作戦は太宰が……俺がちゃんと理解してる。ただこれだけ覚えとけ。蝶はすげえ奴なんだ…あんな無茶しやがんのが腹立たしい事もあるくれえ危なっかしいが、結局今回も組合との戦争の鍵を作ってくれている」
そこまで言えば、事情を知ってる蝶の担任と太宰の目が真剣なものになった。
「鍵…っすか?」
立原の呟きに、蝶を本当に誇りに思って、俺の方が少しだけ笑みを漏らした。
「ああ。あいつは発信機にもレーダーにも引っかからない、目視もできない組合の拠点への道標になってくれてるんだ」
「道標!?そんなの、どうやって…っ」
「そのへんはそこの木偶に聞け。俺はまだする事があるから、出来れば担任、手前も探偵社の方に行っとけ。こっちは結構やられてっから」
グッと拳を握りしめて、踵を返して歩いていく。
探偵社との停戦体制を築くならば、ここでおかしな動きをしてはならない。
手を出すのは勿論許されない……否、俺自身が許さない。
別に探偵社の奴らに情なんてもんがあるわけじゃねえし、殺そうと思えばいつだって殺せる。
しかし、まあ…こればっかりはどうしようもねえ。
「チッ、蝶の事がなけりゃあんな鯖野郎…」
「中原さんと太宰さんは不仲だと聞いていたんですが、なんというか意外ですね」
樋口の問にあ?と返事をする。
「ほ、ほら。やっぱすぐに喧嘩にでもなるのかなと」
続けて立原が言ったので、息を一つついて言った。
「馬鹿が…んな事したらあいつが泣くだろ」
