第8章 空白の時間
「大丈夫だよ敦君、このチビは手が出せないはずだから…あと君が睨まれてるのは、恐らく君の身長が高いのに悔しがってるだけだ」
「手前っ!!?……っくそ、まあいい。このスモーク、用意したのも呪いを解除したのも手前だろ。違和感は無いが、それにしても、どうにも勘がよすぎやしねえか…?」
俺が太宰にこう問い詰めるのは、わざわざスモークなんてものを使ってまで呪いの解除に赴いた事に疑問を抱いたからだ。
解除するだけならば、スモークなど無くても良かっただろうに。
「ああ、それはね?何やら組合の方には異能持ちの狙撃手がいるらしくて、空に拠点があるんなら空から攻撃が来るかもしれないって言われたからさ」
人虎がそれを教えたのかと聞けば、自分はついさっき太宰と合流したばかりで、実際にその銃撃から逃れてきたところだと言われる。
「でも、組合に狙撃手がいて、その上そんなところまで予測を立てるだなんて…乱歩さんですか?」
「ううん、違うよ。私がその可能性を教えられたのは数日前……それも電話で私がその時の状況を教えただけで、狙撃の事を予測した。スモークだけじゃなくって、狙撃を封じるために飽和チャフまで用意しといた方がいいだなんて、普通そんなに早くは思いつかないだろうに…」
太宰の言葉に全員が首を傾げる。
しかし、その頭の良さを、俺の本能が知っている。
そこまで正確に先を予測する事が出来る奴を…そして組合に狙撃手がいた事を唯一知っていたであろう人物を、頭の中に思い浮かべる。
「ま、さか……蝶、か?あいつなのか…っ?」
俺が出したその名前に、太宰以外の全員が静かになった。
ハッとしたように俺の方に視線を集め、太宰の返答を待って静寂が訪れる。
「ご名答、流石…普段馬鹿なくせしてやっぱり蝶ちゃんの事となると勘が鋭くなるよね」
「飽和チャフなんてもんまで混ざってやがるとは思わなかったが、要するにこの騒動もあいつに救われてたようなもんっつうわけかよ……ははっ、やってくれるぜ全く。これで組合の空からの銃撃もこれからはねえわけだし、後はQの呪いさえ発動させなけりゃ…」
そこまで言って再び頭に手を当てた。
「チッ、らしくねぇ…こういう時に限ってすぐにあいつに頼ろうとする癖が抜けねえ。あいつがいればQくらい、すぐに奪還なんか出来るっつうのに」
「……あ!もしかしてこの人が蝶ちゃんの!?」
