第8章 空白の時間
『あの、話って…?』
「ああ、まずは先程も言っていたが、本のことについては君がしなければならない事ではなく俺個人の事情だ、気にしなくていい。それと、今日君に働いてもらいたい事を伝えておこうと思ってな」
フランシスさんはクルリとまたこちらを向いて、分厚い分厚い髪の束をデスクの上に出す。
それらは全て作戦参謀の方が書いた作戦書らしく、そこには事細かに探偵社とポートマフィアの今後の動きの予測がされているそうだ。
手持ちの情報からあらゆる未来を予測する異能…成程、それで私や敦さんを捕らえるのにそんなにスムーズに事が運んだわけだ。
知らない事や予測がつかない非常事態なんかには異能力が発動せずに対応が出来ないそうだが、それでもそんな事が起こることの方が稀だろう。
『で、そんな作戦書を出されて一体何を?』
「今日の作戦、今横浜には呪いの異能力を発動させてある。しかし先程、虎が逃げた事によって新たな作戦書が届けられた…呪いの異能力者の奪還のために、探偵社の社員が単身でそこに乗り込んでくるといった内容だ」
『!!えっ、Qちゃんってここにいるんじゃ…』
「あの子供は今地上の山小屋で捕まえているんだ。そしてそこに誰かが来るという事だから…まあ、罠を配置させてもらった。君を捕らえた触手の異能力をもつラヴクラフトと、彼と一緒にいたジョン君に頼んである」
触手という単語にごくりと喉を鳴らすと、フランシスさんが一瞬私の方をちらりと向いて続けた。
「しかしそこで、まあ無いとは思うが彼らが負けても、予定通りに相手に勝利しても、彼らにはここに戻る手段が無くてな。探偵社にもポートマフィアにも頭のきれる者がいるようだから、迂闊にモビーディックも降ろす事が出来ない」
『!それで、私が移動させればいいんですね?』
「理解が早くて助かる。まあ探偵社の人間が来るわけだから、君は決着が着くまでどこかに隠れていればいい…どういう結果になろうとも、君は戦いには参加しなくていい」
あと、ジョン君と他の下級構成員はともかく、ラヴクラフトはかなりの変わり者でな。と話は続く。
「彼は自力で動くのも面倒なほどの者で、仕事を嫌う。ここ最近はよく働かせっぱなしだったから、そろそろ本格的に眠たくなる頃だろう。地面で寝ていたらそのまま放って戻ってきてくれ」
『えっ、それ野宿って事じゃ』
「そうとも言うな」
